今まで関わりの持ったことのない、学園で有名な生徒に告白をされたらあなたはどうしますか。
 俺なら──




  罰ゲームカップル




「とりあえず逃げます」

「待って待ってー」


 目の前の男の横を通り抜け屋上から出ようとしたその瞬間、軽い声が聞こえてきたかと思うと手首を掴まれた。
 ドアノブを掴んだまま、眉間に皺を寄せながら背後へ顔を向けてみると満面の笑みを浮かべている黒髪のウルフカットの男が俺を見ていた。


「俺の告白に返事してくれないなんてひどいなー」

「いや、返事するもなにも……」


 生まれてこの方、彼女ができたことのない俺の下駄箱にラブレターが入っていたことに、まる一日浮かれた気分で授業を受けた。
 そして放課後になり屋上へと走り女の子がやってくるのを待っていたというのに、女の子の代わりにやってきたのは学園内で色々な意味で有名な不良の狼谷(かみや)だった。
 色々な意味で、というのは本当に色々と噂がありすぎて説明もできない。


「俺と一ヶ月付き合ってって言ってんじゃん? あ、好きでもなんでもないから勘違いはしないでね」

「……あ、罰ゲームですか」


 それならこの男の言っている意味もわかる、と納得しながらお断りの言葉を放とうと口を開いた瞬間、いきなり体をとびらへと押し付けられたかと思うと顔を寄せられた。
 突然のことに目を見開き、近い距離の彼の顔を見ると口の端を持ち上げ不敵な笑みを浮かべていた。


「もし断ったりしたら学校にいられなくなるけど」

「……誰が、ですか」

「もちろんキミに決まってるじゃん?」


 表情も変えずにさらりとそんなことを言葉にする狼谷に恐怖すら覚えた。
 この男ならやりかねない。


「……一ヶ月、ですか」

「うん、付き合ってくれる?」

「いいですよ、付き合いましょうか」


 退学だけは勘弁だ、と小さな溜め息を零しながらそう返すと、予想外だったのか少しだけ目を見開いたかと思うとすぐに満面の笑みを浮かべながらようやく離れてくれた。


「それじゃこれから一ヶ月よろしくね、ネズミくん」

「……鼠淵(そぶち)です」


 付き合うことになってしまい頭を抱えたが、どうせ一ヶ月だけだと思い直した俺は、満面の笑顔を浮かべている目の前の男にそう名前を告げた。




  (終)