お客様はカミサマ?


 時にはコンビニの店員。
 時には殺し屋。
 時にはミュージシャン、などなど。
 そんな俺は、外見は全く普通の男、万津(よろず)だ。



 今日の俺はコンビニでバイト中だ。
 夜のコンビニは正直あまり好きではない。
 なぜなら不良か酔っぱらいに絡まれる可能性が高いからだ。


「煙草寄こせっつってんだろ」


 どうやら今日は不良の日だったようだ。


「未成年に売ることはできません」

「あぁ? テメェ何様だ? 殴られてぇのか?」

「お帰りはあちらになります」

「てめぇ、ふざけんな!」


 丁寧に自動ドアへ手を伸ばしたというのに、なぜ胸ぐらを掴まれてしまったんだ。
 しかも掴まれる際に制服の破けるような音が聞こえたため、少し憂鬱になった。


「お客様」

「こっちが手を出さないでいりゃいい気になりやがって」

「お客様」

「いっぺん殴ってやろうか!」

「お客様、後ろご覧になってください」

「あぁ!?」


 素直に振り返った不良は、そこにあったものに一瞬だけ動きをとめたかと思うと、勢いよく俺の胸ぐらから手を離し逃げるように自動ドアを潜り抜けていった。
 その際、自動ドアの開く速度が遅かったためドアに体当りしていたのは見なかったことにしてあげよう。
 次いで視線を前方へ戻すと、身長は二メートル近く、さらにはガタイのいいこのコンビニの店長が火の付いていない煙草を口にくわえたまま立っていた。
 無精髭まではやし、まるで熊のようなこの人は佐久間(さくま)店長だ。


「また絡まれてたのか」

「店長が来てくれたんで助かりましたよ」

「そうかい、んじゃいつものタバコをカートンで」

「いや、まだ仕事中でしょう」

「ケチケチすんなよ。ハゲるぞ」

「年齢的には店長のほうが先にハゲるような……」

「あ?」

「なんでもないです」


 さっきの不良と同レベルだ。

 なんて言えるはずもなく、レジ付近に置かれている店長がくわえている煙草と同じ銘柄のものをワンカートン手に取る。
 忘れないようおまけ用のライターも。


「そういえば店長、さっきのお客さんに制服破られたんで新しいのください」

「またかよ」

「なんでですかね。俺は帰るように促しただけなのに」

「それが原因だろ」


『めんどくせぇ』と店長らしからぬことを呟く相変わらずの様子に思わず笑ってしまいそうになったが、新たにやってきた酔っぱらいの客に大きな溜め息をこぼした。




  (終)