悪夢あげいん〜AKUAGE〜
その後、零を警戒してか部屋まで送ってくれた寮長さんへお礼を告げてからリビングへとやってくれば、その中心に置いてあるソファへと倒れ込む。
人前だからと強がってはいたけれど、体中が痛くて腕すら満足に動かすことができない。
明日になれば少しは痛みが引くだろうけど、今日の夕飯はどうしようか。
五条とは昨日の夜に喧嘩のようなものをしてしまったから用意はしなくていいか。
いや、それでもし殴られたらどうしよう。
「……あ、落ちる」
意識が飛ぶ、と思ったときにはすでに遅く、俺はソファで横になったまま眠りに落ちた。
────
いい匂いで意識が浮上した。
重いまぶたを、体をゆっくりと持ち上げ辺りを見渡すと、テーブルに料理が並べられていた。
満足に昼飯を食べていなかったことを思い出した俺は、腹を鳴らしながら痛む体に鞭を打ち、ソファから立ち上がればテーブルへと近付き椅子へと腰を落ち着ける。
テーブルに並べられていたのは唐揚げにポテトサラダに味噌汁、麦茶も二人分、用意されていた。
冷えた麦茶を喉へと流し込むと、キッチンからご飯の盛られた茶碗を両手にした五条が現れた。
まさか、と思ってはいたけれど、この料理を作ったのは五条だったのか。
あんなにも毎回、俺の料理を食べていたくせに、自分で作ることできたんじゃないか。
並べられている自分が作ったものよりも美味しそうな料理を睨むように見ていると、目の前に大盛りご飯が盛られた茶碗を置かれた。
「もうちょい少なくても……」
「あ?」
「いただきまーす」
睨むように見られたため、その視線から逃れるように手を合わせ挨拶をしてから箸を手に唐揚げを摘んでは頬張る。
噛めば口の中に肉汁が広がり、自分が前に作った唐揚げとは比べ物にならないほどに美味しい。
それは十人中十人が五条の唐揚げのほうが美味しいというレベルだ。
「……五条って料理上手だったんですね」
「普通だろ」
「これで普通なら俺のはどうなるんですか」
「お前のはうめぇだろ」
「いや、俺のと五条のを比べたらどう考えても──」
言いかけている途中で椅子の足を思い切り蹴られてしまった。
そんなに褒められることが嫌だったのか。
それとも本気で俺の作る料理が美味いと思ってくれてるのか。
どちらにせよ、俺は今、五条と普通に話せていることに喜びを感じている。
「ありがとう」
「は?」
「いや、なんていうか、こんな俺に構ってくれてありがとうございます」
こんなにも俺は自分のことしか考えていないのに、そんな俺の料理を美味いと言ってくれたり。
俺が立てないときに代わりに料理を作ってくれたり。
そういえば絡まれているところを助けてもらったこともあったな。
人の多い食堂で話しかけられたのはちょっと嫌だったけど。
「俺がやりたくてやってるだけだ」
「俺もお礼を言いたくて言ってるだけなんで」
『気にしないでください』と続けると、大きな舌打ちをされてしまった。
それでも空気は心地の悪いものにはならなくて、むしろ心地がいい。
五条と一緒にいて心地いいなんて、俺も少しは変わったのか。
「……明日の朝」
「ん?」
「付き合え。もうアイツから聞いてると思うが俺からも話す」
「アイツって、寮長さんのことですか?」
「あぁ。だから今日はさっさと寝て体治せ」
驚いた。
もちろん俺が制裁にあったことを知っていることにも驚いたが、それよりも俺の体を心配してくれたことのほうが驚いた。
「……らしくない」
ボソリと呟いたら再び椅子の足を蹴り上げられてしまった。
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