筋書き通り?




 今、俺の目の前にはボサボサの黒髪に黒縁のダサい眼鏡をかけている男が立っている。
 この男は一週間ほど前にこの学校に転入し、今まで会長や副会長、そのほかに人気のある奴らを落とし続けてきたやつだ。
 少ない俺の友人が言うには、こういう男を『王道キャラ』と言うらしい。
 なにが王道なのか俺にはさっぱりわからないが。
 そして今の状況もさっぱり理解ができない。


「俺、雅(まさ)のことが好きだ! 付き合ってくれ!」


 どうしてあまり会話をしたことがない男に告白されている?
 俺が通っている学校は男子校だからか確かにホモが多い。
 カッコいいやつや可愛いやつには親衛隊というものができるほどだ。

 でも俺は違う。
 平凡顔のノーマル男だ。


「会長とか副会長とかは?」


「あいつらは友達だ! 変なこと言うなよ!」


 お前が変なこと言うなよ。


 なんて言葉を呑み込んではこういう男だったのか、と面倒さに思わず溜め息がもれた。
 そんな溜め息が聞こえたのか俺と同じくらいの身長の男は大きく肩を揺らしたあと、自分がかけていた眼鏡、髪を掴んだかと思うとそれを床へと投げつけた。
 目の前にはサラサラの金髪に焦げ茶色の瞳、整った顔を持った男が立っている。
 先ほどまでのボサボサ眼鏡男はどこに行った?


「俺は……雅だけが好きだ。雅にだけキスしたいって、触りたいって、抱きたいって思うんだ」


「お前……」


「お前なんて呼ぶなよ! 俊(とし)って呼んでくれよ、雅」


 男の腕が俺の首にまわされ、顔を近づけられれば慌てて顔を背け、彼の肩を緩めに突き飛ばす。
 すると俺の彼のあいだに一歩分の距離があく。
 緩めにだったのだが、突き飛ばされた彼はひどく傷ついた表情を浮かべていた。


「俺は、お前のこと知らないし、話だってそれほどしたことなかったと思う。それなのに好きとか言われても──」


「なに言ってるんだよ。俺は雅のこと知ってる! 好物も趣味も笑い顔も泣き顔も。いつも家でなにをしてるのかだって。そういえば最後にオナニーしたの一週間前だろ? 今日もするのか? 俺も手伝ってやろうか?」


「な、に」


「雅って突っ込まれるの初めてだったりするのか? 大丈夫だ、痛くないようにじっくり慣らしてから一つになろう。なあ、雅、雅」


「だから、なんなんだよ!」


 こちらに伸ばされた彼の手を強く弾きながら放った言葉が、俺たちのいる空き教室に響き渡った。


「お前さっきからなに言ってるんだよ! 俺のことを知ってる? 一つになる? やめてくれ、気持ち悪い……俺にそういう趣味はない」


「雅」


「会長とでもよろしくやってろよ。俺に近づくな」


 相手に一度、睨みを利かせてから教室から出ていこうと彼の横をすり抜けたとどうじだ。
 彼の手が俺の手首を掴み、そのまま背へと捻り上げられてしまえば口から苦痛の声がもれる。
 捻り上げられた腕に力を込めてみるが、ビクともしない。
 俺と同じくらいの体格のくせに、どこにそんな力があるんだ。


「雅、なんでそんなこと言うんだ? 俺には雅だけなのに! ……もしかして会長に嫉妬してる? 今まで会長と一緒にいたから。でも大丈夫だ、会長とはなにもない」


 一体コイツはなにを言っている?


「これからはもうずっと雅と一緒にいる。……嫉妬するなんて、雅は本当に可愛い」


 腕を捻り上げられたまま埃っぽい床へとうつ伏せの体勢で押し付けられてしまえば、その体に重みを感じたため限界まで首を背へ向けみる。
 するとそこには馬乗りになっている男の姿が。

 顔から血の気が引いた。


「ふ、ざけるな! 離せ、離せよっ!」


「雅……そういうプレイがしたいのか? 雅がそんなにエッチだなんて思わなかった。興奮してきたよ」


 太ももに熱い塊を押しつけられる。


 待て。
 待て待て、待ってくれ。

 こんなのおかしいだろ。
 どうしてこんなことになった。
 どうして話が通じない。


 なあ、数少ない友人。
 これも王道だって言うのか?


「雅、好きだ。愛してる」


 楽しそうに笑うコイツから、俺は逃げることができるのだろうか。




  (終)