いつか会いたいです。
今度しましょう。
そう言ったはいいものの、俺と風紀委員長に上手いことそんなタイミングが訪れるはずもなく。
むしろこの前の件を警戒して隠れてキスをすることもできなくなってしまった。
最近は真面目に学園生活を送っているから風紀委員室に呼び出されることもなくなったし。
偶然、廊下ですれ違っても挨拶をするだけ。
まるで一年の頃に戻ったみたいだ。
いや、俺が一年の頃のままならこんなことは考えなかったんだろう。
(せめて連絡先でも聞いとけばよかった)
教えてくれるかどうかは別として、連絡先を聞いておかなかったことを今さら後悔した。
(また風紀委員長と話せんのかな)
ベッドの上、仰向けの体勢で誰からも連絡の来ないスマホをぼんやりと見つめていたら、左頬を突かれるような感覚。
スマホを持ち上げていた手を腹の上に、首だけを左へと向けると軽井がうつ伏せの体勢で俺の顔に手を伸ばしていた。
「なーんかまた考え事してる」
「……してない」
軽井相手に別にごまかす必要もなかったんだけど。
でも、風紀委員長とセックスするために会いたい、なんて正直わけがわからない。
「……なあ」
「ん?」
「付き合ってないのにセックスしようとすんのって変かな」
「それ俺に聞く?」
確かに。
「でもお前、最近誰も連れてきてないよな」
「そうだね」
なぜか軽井の人差し指が再び俺の頬を突き出す。
痛くないからいいんだけど。
「つか、俺たちもしたじゃん」
そう言われて思い出すのは、謹慎中にこいつに抱き潰されたときのこと。
俺が風紀委員長のことで悩んでいたときに、なにも考えなくて済むようにとしてくれた。
思えばこいつが部屋に誰も連れて来なくなったのはその辺りからだった気がする。
その頃から俺の部屋に居座るようになったような。
「あれは……俺もしたいって思ったから」
「それでいいと思うよ」
頬を突いていた軽井の手が俺の頬を包み込む。
親指の腹で、まるで猫の頬に触れるかのように撫でられ気持ちがいい。
「お互いにしたいって思ってんなら俺はいいと思う」
恋人ができたらさすがにダメだけど、と続けられた言葉に、ふっと元恋人のことを思い出した。
最近は風紀委員長や軽井のこと、学校のことで頭がいっぱいであいつのことを忘れていた。
でもこうやって思い出しても前ほど苦しくならないのは、毎日を楽しく過ごさせてくれる軽井のおかげなんだろう。
「恋人はしばらくはいい」
「いらない?」
「いらない。今はお前といるほうが楽しい」
未だ頬に触れたままの手に目を閉じながら自分からすり寄ってみると、隣から小さなため息が聞こえた。
どうしたのかとまぶたを持ち上げると、お互いの息がかかるほどの距離に軽井の顔があった。
いつの間にか上半身を起こしていた軽井のやわらかい赤毛が俺の頬を掠め、少しくすぐったい。
俺と目を合わせていた軽井の視線が少し外れたかと思うと、腹の上に置いたままの俺の手の中のスマホを抜き取りヘッドボードへ。
掴むものがなくなってしまったその手に軽井の手が絡み、そのままシーツへと緩く押し付けられる。
「ひらっちってさぁ、たまにそういうのやるよね」
「そういうのって?」
「自覚ないってのがまた……」
なんて、俺の首元で一人でぶつぶつと言っている軽井の息が首にかかり、絡まっている手に思わず一瞬だけ力が入る。
そのことに気がついたのか、繋がれている軽井の指が指の付け根、手首をゆっくりとなぞってきた。
「……ひらっち」
視界に入っていた赤毛が動いたかと思うと、いきなり喉仏を緩く噛まれる。
次いでそこを這うぬるりとした熱いもの。
「っ、おい」
「もし俺がさ」
慌てて声をかけるが華麗に無視されてしまった。
水気の音を立てながら喉仏を集中的に責められて、変な気分になりそうで焦る。
「ひらっちと今したいって言ったらどうする?」
しばらくそこに顔を埋めていた軽井がようやく頭を持ち上げた。
熱っぽい、欲を含んだ瞳が俺を見ている。
軽井をそんな風にしているのが俺なんだと思うと、なんだかゾクゾクする。
「…………お互いにしたいんならいいんだろ」
少しだけ首を動かし、目の前の軽井の喉仏に噛み付いてやった。
痛そうに声を上げ、体を揺らしたこいつと繋がっている手に力が込められ俺も少し痛い。
「平江……」
こいつ、名前を呼ぶタイミングがいつもズルすぎる。
「そんなことしてさ、また第一ボタンまで留めることになっても知らねーけど」
「……首に痕つけんのはなし」
「ごめん、無理」
そう即答した軽井の顔が首筋に。
手は俺の着ているスウェットへと伸ばされた。
いつか風紀委員長とこういうことができるんだろうか。
なんて、どうしてそこまで風紀委員長との行為にこだわっているのか自分でも不思議に思いながら、今はただ軽井との行為に溺れた。
(終)
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