悪戯、満たされました


 補習を終えてから帰ってくると、末尋さんがソファで眠っていた。
 弓道で疲れているのか、それとも陽気な天気だからか。
 彼の横、床へと座り込めばその寝顔を覗き込んでみる。

 普段は俺よりも早く起きて、遅く眠るためこうして寝顔を見ることは初めてだ。
 いつも俺の心まで見透かすような赤い瞳は閉じられている。


「……末尋さーん」


 名前を呼びながら人差し指で彼の頬を突っついてみるが、それほど深い眠りに落ちているのか目は開かれない。
 そのことになぜか悪戯心が湧き上がれば、さらに顔を寄せ息がかかるほど近付いてみる。


「……末尋さん、起きないとキスしちゃいますよ」


 それでも起きる気配はない。
 頬を若干、熱くしながら触れるだけの口付けをした俺は、恥からすぐに顔を離し俯く。


「もう終わりなのか? お姫様」


 笑いをこらえているような、そんな声に勢いよく顔を持ち上げると、末尋さんの赤い瞳が俺を見つめていた。


「すえ……え、はっ?」


 突然のことに動揺しながらも頭をフル回転させ、状況を把握した俺は慌ててその場から逃げ出そうとするが、末尋さんに強く腕を掴まれてしまったため離れることができなくなる。


「唯」


 名前を呼ばれ、腕を引っ張られた俺は簡単に末尋さんの体へ覆いかぶさるように倒れ込んでしまう。


「な……な、なんで! いつからっ!」

「唯が俺を突っついてた辺りからだよ」

「……それ、最初からじゃないですか」


 羞恥で熱くなる顔を手のひらで押さえると、腕を掴んでいた手が離れ頭を撫でられる。


「で、もう終わりなのか?」

「……もう、勘弁してください」


 頭を撫でていた手が耳裏を撫でてきたため、ピクリ、と体が震わせながら指の隙間から末尋さんを見てみると、熱っぽい瞳と目が合った。


「……唯……」


 顔を覆っていた手を退かされ、甘く名前を囁かれながら唇を塞がれた。
 そのまま体勢を入れ替えられ、ネクタイをしゅるりと解かれたことに慌てて抗議しようとするが再び唇を塞がれてしまったため音にはならなかった。

 触れ合って、深く重なり合って。
 最初はただのイタズラのつもりだったのに。
 それなのに俺の心は満たされていく。


「すえひろ、さん」

「……ん?」

「好き、です。大好きですっ」


 荒い息を吐き出しながら告げた言葉に、末尋さんは満面の笑顔で返してくれた。




  (終)