あなたの一生を俺に


 どうやら末尋さんは剣道で会長に勝つ気がないみたいだ。
 だけど、それだと俺と末尋さんは離れ離れになってしまう。
 とても不愉快なことだが、それがほぼ確定だというのなら、末尋さんの心に俺を残そう。


 竹刀を手に、末尋さんが冷めた目で俺を見つめている。
 そんな彼にやわらかく微笑んでみせれば、末尋さんは驚いたようにわずかに目を見開いた。
 その瞬間を狙い、手にしていた居合刀の刃の中心あたりを握りしめては自身の胸へとあてがい、ためらいなく深く押し込む。

 叫び、狂いたくなるような痛みに頭の中が真っ白になり意識が飛びそうになる。
 聞こえてきた叫び声になんとか意識を保つと、眉間に深くシワを寄せながら俺に駆け寄ってくる末尋さんが目にとまった。
 そんな彼に赤く染まった手を差し伸べるが、それを掴まれるよりも先に自分の体はバランスを崩し、背中から床へと倒れ込む。
 短い呼吸を繰り返しながら咳き込むと、口の中に鉄の味が広がった。


「すえ、ひろさん」

「なにしてるんだよお前はッ! ちょっと待て、すぐに救急車を呼ぶからっ」


 倒れた俺の体を抱き起こし、携帯を取り出そうとした末尋の腕を力の入らない手で掴む。
 けれどそんな手は簡単に振り払われ、取り出された携帯を耳にあてがい彼は誰かと話をし始めた。


「末尋さん……やめて、ください。呼ばないでください」


 絞り出し告げた言葉に、末尋さんはようやく俺を見てくれた。


「こうして俺が死ねば、末尋さんはずっと、俺を忘れない」

「なにを、言ってるんだよ」

「俺は、末尋さんのことが好きです。愛して、います。……だから」


 先ほど掴まれることのなかった赤く染まった手で末尋さんの頬に触れると、彼の綺麗な肌が赤く染まる。


「一生、俺のことを忘れないで、生きてください」


 そう言葉にしてから、末尋さんの顔がゆがんでいることに気がついた。
 ポタポタと、まるで雨のようなものが俺の頬に落ちてくる。


「……唯。俺が、俺がっ……悪かったんだよな」


 震えてはいるけれど、末尋さんの声はやっぱり心地いい。
 もっと聞いていたい、そう思っているのにその声は徐々に遠くなっていく。
 末尋さんの頬に触れていた手が落ちる。
 視界が、白んできた。


「唯、唯ッ!」


 悲痛な叫び声が、救急車の近付く音が聞こえてきたかと思うと突然、全てがシャットダウンした。




  (終)