伝われ、この気持ち


　今、俺は壁を背に逃げ場がなく追い詰められている。
　緊張で目を泳がせながら下唇を噛み、目の前にいる真剣な表情を浮かべた末尋さんを見る。


「早く」


　そう促されても、言えないものは言えない。
　今まで言いたいとは思っていたが、いざ言おうと口を開いても言葉が出てこない。


「……唯」


　耳元で優しく名前を呼ばれると、顔が一気に熱くなる。
　そんなみっともない顔を隠そうと自身の手を動かすが、その手のひらが自分の顔を覆うよりも先に末尋さんに手首を掴まれてしまった。
　掴まれた腕はそのまま壁へと緩く押し付けられる。


「す、末尋さんっ」

「違う」


　低い声が、息が耳にかかり思わず熱っぽい息を吐き出す。


「……や、八代、さん」

「さんはいらない」

「……八代」


　まるで蚊の鳴くような、小さな声で今まで拒否していた名前を呼ぶと、腕を押し付けていた手がするりと俺の腰へとまわされ、強く体を抱き締められてしまった。


「末尋さん！」

「唯」


　名前を耳元で甘く呼ばれてしまうと、腰が砕けそうになり慌てて両腕を末尋さんの背中へとまわす。


「……唯」

「や、八代」

「唯、可愛い」


　体を少しだけ離されたかと思うと末尋さんの長い指が俺の顎を持ち上げ、そのまま唇を重ねられる。
　深く重なり合ったまま横のベッドへと体を倒され、性急に熱を高め合い繋がる。
　揺さぶられたまま閉じていた目を開き見上げてみると、ツラそうにわずかに眉間に皺を寄せた末尋さんと目が合った。


「唯……」


　熱っぽい息を吐き出しながら顔を寄せてきたかと思うと、眉間に口付けを落とされた。


「……好きだ」


　真っ直ぐな言葉に、嬉しさから潤む目を隠すようさらに顔を寄せては、唇を重ねる。
　そこから俺の気持ちが伝わるように、深く。




　　（終）


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