白黒病〜YAMI〜


  キライデスキ


 金久保に会うと必ず一度は殴られる。
 いや、一度だけじゃない。
 二度、三度……数えきれない。

 そして今、不運にも金久保に会ってしまった俺は殴られている。
 顔を殴られ、腹を蹴られ。
 口の中に鉄の味が広がっている。


「っは……か、ねくぼ」


 コンクリートの上に転がっている俺は、力の入らない手をゆっくりと立ったままの金久保へと伸ばす。
 だがその手は金久保の足裏によって踏み潰される。
 あまりの痛さに声にならない声が叫ばれる。


「っか、ね……」

「なあ黒滝、なんで俺がこんなことするのか不思議で仕方ないだろ」


 足裏に俺の手を置いたまま、彼はしゃがみ込み話し出す。


「前にも言ったよな、俺はお前のことが嫌いで好きだって。だからお前の顔見ると無性に殴りたくなるんだよ」

「ふざけ、んな」

「ここまでされても強気なお前の苦痛にゆがむ顔見ると、本当にたまらなくなるんだよな」


 俺の前髪を掴み、そのまま引っ張り上げられる。
 楽しげに顔がゆがんでいる金久保が視界に入り、『狂ってる』と吐き出してやると、その顔はさらにゆがめられる。
 そこでようやく足が離れ、解放されたと安堵したのも束の間。
 耳元で囁かれた言葉に、俺は弾かれたように痛む体を引きずりながらその場から走り出した。


『無理やり犯したらどんなイイ顔してくれるんだろうな』


 金久保は追いかけては来なかった。
 それでも背から笑い声が聞こえてくるような気がして、吐き気がした。




  (終)