白黒病〜YAMI〜
知ってはいけない。
夏休み中に風邪をひいてしまった。
しかも一人暮らし、立ち上がることもできずベッドの中で荒い息を吐き出しているとインターホンが部屋に響き渡った。
(こんなときに誰だよ)
大きな舌打ちをこぼしながらだるい体を無理やり起こし、冷たいフローリングの上をぺたぺたと足音をたてながら玄関まで向かえば覗き穴を覗き込んで見る。
するととびらの向こう側に立っていたのは、コンビニの袋を手に白狐のお面をかぶったシロだった。
予想もしていなかった突然の来訪に驚きつつ、玄関のとびらを開く。
「シロ……くるとは思わなかった」
「黒滝が風邪ひいてるんだから放っておけるわけないだろ」
一人でいて感じていた寂しさをかき消してくれるような言葉をくれながら、頭を撫でてくれるシロはやっぱり優しい。
「わざわざ立たせてごめんな」
ふらつく俺の体を支えるよう腰に腕をまわすシロは、空いている手でかぶっていたお面を額まで持ち上げながら歩き出す。
そのまま寝室へと向かうとベッドへ寝かせてくれる。
「まだご飯は食べてないだろ。おかゆくらいなら食べられそうか?」
「……作ってくれんの?」
コンビニの袋から取り出されるスポーツドリンクを受け取りながらそう尋ねると、『もちろん』なんて満面の笑顔で即答されてしまった。
受け取ったスポーツドリンクを飲み、シロが作ってくれたおかゆを食べ終え俺は今ベッドで横になっている。
そんなベッドに寄りかかりながらシロは携帯をいじっている。
情報屋の仕事でもしているんだろうか。
聞いても教えてくれるはずのないことをぼんやりと考えていると、満腹になったせいか眠気が襲ってくる。
もう少しシロのことを眺めていたいんだけど。
重くなっていくまぶたに逆らうことができず、そのまま従うように目を閉じた。
────
ゆっくりとまぶたを持ち上げると、お面をかぶっていないシロがやわらかい微笑みを浮かべ、ベッドに両腕を置きながら俺を見下ろしていた。
「おはよ。体調はどうだ?」
もう朝だったのか。
「まだちょっとだるいけど、昨日よりはいいかな」
寝起きのため舌足らずになりながらもそう返すと、また頭を撫でられた。
「俺はこれから仕事に行ってくるけど大丈夫か?」
「大丈夫。むしろきてくれてサンキュ」
去っていくシロの背中を見送った俺は小さなため息をこぼす。
まさかシロが看病にきてくれるとは思わなかった。
心配させたくなかったから誰にも伝えていなかったのに。
「……誰にも伝えていなかった?」
なにかがおかしい。
誰も知らないはずなのにどうしてシロは俺が風邪をひいたことを知っていた?
深く考えようとすると頭が痛くなってくる。
きっと情報屋だからだ。
情報屋だからなんでも知ってるんだ。
それ以外に、理由はないはずだ。
(終)
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