もう一つの世界
隊長の撃ったモンスターの弾がタマキ君の左胸に埋め込まれている。
本当は俺が受けるはずだった罰。
こんなことになるなんて予想もしていなかった。
「タマキ君……嫌だ。こんなのって、嫌だよ」
瞳を閉じている彼の頬に触れると、まだ温かい。
それなのに呼吸をしていない。
「くそう! なんでだよ! タマキ! 目を開けろ! 命令だぞ!」
それは無理な命令だよ。
珍しく取り乱している隊長の言葉に内心そう呟き、俺はタマキ君の体を力強く抱きしめる。
「俺が、悪いんだ。タマキ君に殺してもらおうとしたから。本当は……自分でやらなきゃいけないってわかってたのに」
けれど俺は誰よりも弱かったから。
だから自分を殺すことすらできなかった。
神様はこんな俺を許してはくれないだろう。
――――
「ん……」
どうやら眠っていたらしい。
目を薄く開くと、今いる場所がどこなのか思い出す。
腕につけていた時計を見てみると、どうやら夜らしい。
だからこんなにも静かなのか。
ふう、と小さく息を吐けば、隣に誰かが腰を下ろしていることに気がつきそちらに顔を向ける。
「――っ!」
妙な夢を見ていたせいで記憶が混乱していたらしい。
帽子を深くかぶりながら目を閉じ、俺の肩に寄り掛かっているタマキ君の顔を見たらなぜだかひどく安心した。
「そっか。タマキ君と……逃げてきちゃったんだ」
ぽつりと言葉を呟きながら手を伸ばし、彼の頬を撫でてやるとくすぐったそうに身をよじった。
そんな彼の反応に微かに表情を緩めながら先ほどまで見ていた夢の内容を思い出そうとする。
が、やはり夢のせいか思い出すことができない。
だが、とても胸が苦しくて、泣きたくて、叫びたくなるほどの夢だったような気がする。
「……タマキ君」
無意識のうちに彼の名前を呟くと、なぜだかいつもよりさらに彼のことを愛しく感じられた。
深めにかぶられていた彼の帽子を少しだけ持ち上げ、音を立てないようそっと彼のに口付けを落とした。
(終)