一%の恋




「なあ、カゲミツ」


 聞き慣れたJ部隊のリーダー、タマキの声が俺の名前を呼ぶ。

 そのことに胸を跳ね上げながら立ち止まり振り向けば、手にしていた紙を見つめながら歩いていたタマキは俺の背中へとぶつかる。

 そうなると当然、俺よりも身長の低いタマキはよろけてしまうわけで。


 後ろへ倒れそうになる彼の手首を慌てて掴んでやると『サンキュ』なんて言いながら笑ってくれる。



 ほっそい腕だな。


 こんな腕に俺たちは守られてるのか。



 手首から未だに手を離さない俺を不思議に思ったのか、彼は俺の顔を覗き込みながら『どうした?』なんて聞いてくる。

 近い彼との距離に気がつけば慌てて手を離し、数歩距離をおく。


「なんでもない。タマキこそどうした?」


「あのさ、明日のことなんだけど――」


 俺のことを数秒間、見つめていたかと思えばすぐに明日の任務の話を持ち出す。


(変に思われたか……?)


 なんて、不安を感じていると、突然タマキの驚いたような声が耳に入り、慌ててそちらに顔を向ければ彼の腰に抱き着いているアラタの姿が視界に入った。


「タマキちゃん! カゲミツ君と二人でなに話してるの? 秘密のお話?」


「なに言ってんだよ。明日の話に決まってるだろ」


 相変わらずなにを考えているのかわからない笑顔でそう問いかけたアラタの言葉に少しだけ胸を跳ね上げるも、すぐにそう返事を返したタマキの言葉に思わず肩を落とす。

 と、くすっ、という小さな笑い声が耳に入ったため、勢いよく顔を上げながら未だに腰に抱き着いているアラタを睨む。


「おいクソガキ、そろそろタマキから離れろ。見てて暑苦しいだろうが」


「え〜、そんなことないよねー。タマキちゃん」


「俺は別に……。つか明日の――」


「ほらー! そんなの気にしてるのカゲミツ君だけだよ? なに、ヤキモチ?」


「うるせえ! いいからとっとと離れろ!」


「カゲミツ君、子供相手に大人げなーい」


「この、クソガキが!」


 確かに大人げないとわかっている。


 それでもタマキの体から無理やり引き離してやれば、胸倉を掴み睨み合う。


「あ、カナエ」


 しばらく睨み合っていれば、タマキの声が俺ではない人物の名前を呼ぶ。

 アラタの胸倉を掴んだまま勢いよくタマキのほうへ顔を向けると、カナエと楽しそうに話をしているタマキの姿が視界に入り、思わず眉を下げてしまう。


「ほんっとあの二人って仲いいよね〜。カゲミツ君の入る隙間なんてないんじゃない?」


「うるせえ! ガキには関係ないことだろ!」


 未だに掴んでいたアラタの胸倉から手を離し、タマキの元へと向かう。



 これが俺の片思いだということくらいわかってる。


 結ばれないということくらい、わかってる。


 それでも一%でも望みがあるのなら、俺はタマキのそばにいたいと思う。




  (終)