二人で嫉妬
小さな欠伸をもらしながらバンプアップへ足を踏み入れれば、黒の革張りのソファに腰を下ろしているカナエが視界に入ったため、声をかけながらその隣へと座る。
階段状の梯子ではなく、ここにいるということは話しかけてもいいのだろう。
その証拠に彼が読んでいた聖書は閉じられ、俺へ顔を向けてくれている。
「タマキ君、寝不足?」
欠伸を見られていたらしく、そう問いかけてきた彼に眉を下げながら笑って見せると、釣られたように彼も眉を下げてきた。
かと思うとそっと手を伸ばし、優しく俺の手を握りしめてくる。
久しぶりに感じた人肌が心地よくて。
カナエといて流れるやわらかい空気が好きで。
俺は開いていた瞼をゆっくりと閉じ、彼の肩へこてんっと頭を載せた。
驚いた彼の声が耳に入り思わず笑ってしまったが、もう一度、目を開く気力はなかった。
「タマキ君……」
優しく俺の名前を呼び、カナエのものであろう手がまるで猫の頬を撫でるように優しく俺の頬を撫でてきた。
かと思うとその指は俺の唇を形取るようになぞってきたため、未だに俺の手を握りしめている彼の手を握り返してやると、唇にやわらかい感触が。
「ん……」
「……好きだよ、タマキ君」
『俺も』と口を開きかけたとどうじに響き渡ったとびらの開く音に、閉じていた目を開きながら慌てて音の聞こえたほうへ顔を向ければ、目を丸くしている隊長の姿が。
「た、隊長! これは――」
「お楽しみ中か? それなら俺も混ぜてもらいたいものだな」
慌てて言い訳を口にしようとするが、満面の笑顔を浮かべながら放たれた彼の言葉を耳にしては、思わず口を微かに開いたまま動きをとめてしまう。
が、数秒後には俺の顔は耳まで真っ赤に染まる。
「本当、タマキは可愛いな」
ゆっくりと俺のほうに隊長の手が伸びてきたかと思うと、俺のではない誰かの手が彼の手を弾いた。
そのことに驚き、微かに目を見開きながら弾いた人物の顔を見てみると、その人物は眉を下げながら笑っていた。
「あの、タマキ君にあまりちょっかい出さないほうが……」
「なんだカナエ。ヤキモチか?」
「え!」
隊長の言葉が予想外だったのか、カナエが目を丸くしたとどうじに隊長の手が彼の頬に触れた。
徐々に赤くなっていくカナエの顔。
胸がなんだかモヤモヤした。
目の前の光景から目を背けたくなった。
けれど、隊長の顔がカナエに近づいていることに気がつけば、俺はカナエの体を引き寄せて抱きしめていた。
「た、タマキ君っ?」
腕の中で驚いたようにカナエは声を上げる。
その声を耳にしながら睨むように隊長へ顔を向けると、いつの間に伸びてきていたのか、彼の手が俺の頭を撫でた。
「お前たちをからかうのは楽しいな」
なんて言葉に俺は再び顔を熱くしながら、声を張り上げた。
(終)