キミでよかった。




「なあタマキ。今、幸せか?」


 子供たちが眠った隙を見計らい、洗濯物を干しているときだ。

 隣で俺の手伝いをしてくれていたトキオがぽつりと、そんなことを呟いた。

 洗濯物を手にしたまま彼へ顔を向けてみると、いつもは飄々としている彼が珍しく眉尻を下げ笑っていた。

『いきなりどうしたんだ?』と問いかけてみるが、彼はなにも言わず変わらない笑みを浮かべたまま。

 手にしていた洗濯物を干しては、そのまま流れるように彼の両頬を挟む。

 濡れていた洗濯物に触れていたからか指先が冷たく、それに反応したのか彼の肩がぴくりと小さく揺れた。


「トキオがなにを考えてるのかわからないけど、俺は幸せだ。子供たちのことだってトキオのことだって、大好きだよ」


「タマキ……」


 名前を呟いた彼の腕がするりと俺の腰にまわされる。


「例え今の子たちが大人になってここから去っていっても。俺たちが杖をついて歩くようになっても。俺はずっとここにいたいって、お前のそばにいたいって思うよ」


 腰にまわされていた腕に力が込められたかと思うと、彼は俺の肩へと顔を埋める。

 そのせいで彼の表情を伺うことができず、なにを考えているのかわからない。

 ただわかるのは、俺の腰にまわされている腕が微かに震えているということだ。


「お前も同じ気持ちだって信じてる。……違ったか?」


 いつもは一くくりにされているはずの、今日は珍しく解かれている彼のやわらかい髪を撫でてみる。

 と、肩に顔を埋めたまま呟いた彼のくぐもった声が聞こえたため、なにを呟いたのだろうとそんな彼の顔を覗き込んでみる。


「タマキが好きだ」


 予想外の言葉に思わず思考がとまる。

 そんな俺に気がついていないのか、彼は言葉を続ける。


「俺も同じ気持ちだよ。きっと不安だったんだろうな。自分の夢にタマキも引き込んだから」


「そんなの、気にするなよ。俺は今の生活、本当に気に入ってるんだから」


「……ありがとうな。タマキでよかった」


 肩に顔を埋めていた彼がやっと体を離したかと思うと、目元がほんのりと赤く染まっていることに気がついた。

 けれど俺は気がつかないフリをし、そんな彼へ顔を近づける。

 触れるだけの口付けを頬へ落としてやると、彼はやっといつもの微笑みを浮かべてくれた。


 例え俺たちがこの先、杖をついて歩くことになろうと、それでもこの場所でこうして二人で笑い合えたらいい。




  (終)