集中できません。
報告書が書き終わらない。
今まで溜め込んでいたことが駄目だったか。
そんなことを考えながら深く息を吐きだし、使いすぎて痛む目を閉じながら瞼の上へと手を載せる。
温かい自分の手が瞼までも温かくしてくれるため、疲れが取れるようだ。
(あったかいタオルとか置いたらもっと気持ちよさそうだな)
しかしそれは報告書を書き終わらせてからだと、手を離し瞼を持ち上げては『よし』と気合いを入れてからペンを握り直す。
どうじだった。
目の奥に痛みを感じた俺は、一瞬だけ目を大きく見開いてから痛む目を押さえ、深く眉を寄せる。
何度かまばたきをしてみるとゴロゴロと、なにかが目に入ってしまったらしい。
鏡を見てこようと腰を下ろしていた椅子から立ち上がり、片目を押さえたままふらふらととびらへ向かう。
するとそのとびらはいきなり開かれ、見事に俺の額を直撃する。
目も痛くて額も痛くて。
声にならない声を上げながら思わずその場でしゃがみ込むと、頭上から聞き慣れた声が聞こえた。
聞き慣れた、というよりもこの部屋には二人しか住んでいないため誰の声なのか考えなくてもわかるが。
「おでこ大丈夫か? ほら、お兄さんに見せてみなさい」
言われるがまま、されるがままに目と額を押さえていた手を退かされ、顎を持ち上げられては痛む目から涙を零したまま睨むように目の前のトキオを見る。
しばらく俺の目を見つめていた彼はなにを思ったのか、涙が零れているほうの目尻へと軽い音を立てながら口付けを落とす。
「……え」
なにをされたのか理解ができなかった。
呟いた俺のことなんかお構いなしに彼は頬、顎へと口付けを進めていく。
「ま、まま……待てーっ!」
思わず彼の体を突き飛ばしてしまった。
いや、俺は悪くないはずだ。
いきなりあんなことをしてきたトキオが悪い!
内心そんなことを叫びながら、耳まで熱くなっている頬に触れては思わず深く息を吐き出し、零れていた涙を乱暴に拭う。
「痛いなー。せっかく取ってあげたのに」
「……取ったってなにを」
すでに立ち上がり、俺の隣に立っているトキオを再び睨むように横目で見上げては、彼は自分の目尻に触れながら『睫毛』なんて言った。
その言葉に何度かまばたきを繰り返す。
「あ、痛くない」
「目を押さえながら泣いてたからなにか入ったんだろうなって──」
「な、泣いてない!」
「はいはい。そういうことにしておくよ。報告書終わってないんだろ? お兄さんも手伝ってやるから」
言い返そうと口を開きかけるが、頭を優しく撫でられてしまうと開きかけた口を閉ざすしかなくなる。
トキオはいつもずるい。
そんなことを内心、呟いては彼が身につけているネクタイを引っ張り、感謝の気持ちを込めて触れるだけの口付けをした。
(終)