悪夢あげいん〜AKUAGE〜
「え、なんですかこれ。電話番号?」
「まず吹き出したのを拭け」
「誰のですか? まさか寮長さんのとか言わないですよね」
「だから拭け」
「もし寮長さんのだって言うなら遠慮しときます。だってほら、俺なんかが恐れ多いですし」
「拭けっつってんだろッ!」
「今すぐに!」
差し出されたものが電話番号だったから一瞬だけ我を忘れてしまった。
だが右頬に押し付けられるティッシュ箱の痛みで我に返った俺は、ものすごいスピードで吹き出してしまったコーヒーを、口元を拭う。
「で、あの、それは結局誰の――」
「俺の番号だ」
「ちょっと用事思い出したので失礼します」
美形の番号をもらうなんて、平和に生きたい俺としてはそんなの勘弁だ。
内心そんなことを呟きながらソファから立ち上がった。
はずなのだが、俺の手首を掴んでいるこの手は一体、誰のだ。
「耐えられないことが起きたら連絡しろ。絶対にだ」
『それとちょっと待て』ととびらの向こうを確認する寮長さんは、もしかしたら俺が思っているよりもいい人なのかもしれない。
まあ、拉致られた意味は今でもわからないけれど。
でも連絡することはこれから先も絶対にないだろうな。
部屋を出た俺は手の中の紙をクシャリと握り潰した。
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