悪夢あげいん〜AKUAGE〜


 箸や水などをトレイに、気のない俺の返答に満足したらしくようやくトレイから手を離してくれた。
 未だ向けられたままの笑顔から気をそらすように辺りを見渡し、できるだけ隅の空いていた席へ腰を落ち着けた。


「いただきまーす、っと」


 箸を手に、さあ食べよう、としたときだ。
 まだ空いている席はたくさんあるというのに、誰かが俺の隣に座った。

 辺りがざわついているのは気のせいだと信じたい。
 隣に座った人の髪が赤かったように見えたのは気のせいだと思いたい。


「なあ」


 次の日に、しかも食堂で話しかけてくるはずがない。
 だって今まで絡んでこなかったじゃないか。
 確かに昨日は俺の晩飯を食われたけど――


「うおっ、危な!」


 椅子の足を強く蹴り上げられた。
 反動で手がトレイにぶつかり、中に置かれていたコップから水が少しだけこぼれた。


「無視すんじゃねぇよ」

「……なんでしょう」


 また椅子の足を折られたらたまったもんじゃない、と渋々、隣へ顔を向けると予想通り五条の姿が。
 眉間に皺が寄ってるように見えるのは俺のせいなのか。
 とりあえず、用事があるなら早く終わらせて欲しい。
 そばがのびてしまうし、なにより周りの視線が痛い。
 同情のような視線と、嫉妬のような視線を感じるのは絶対に気のせいじゃないと思う。


「あのな――」


 ようやく五条が口を開いた瞬間、辺りに響き渡るのは黄色い声や野太い声だ。


 来たか。


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