悪夢あげいん〜AKUAGE〜
俺は別に騒がしい人は嫌いじゃない。
ただ、会話のキャッチボールができない人は誰でも苦手だと思う。
強く掴まれたせいで痛む肩を制服越しから触れつつ、廊下で話している人混みを縫いながらトイレへ向かう。
緩まれているネクタイをほどきながらトイレのとびらを開くと誰もいなかった。
そのことに溜め息混じりに息を吐き出しながらブレザーを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外しつつ鏡を覗き込む。
零に掴まれた部分が赤く染まっている。
もう少し長く掴まれていたら、もしかしたら青くなっていたかもしれない。
「……なんなんだ、アイツ」
ネクタイを握り締めている手を洗面台にガンッ、と叩きつけたその瞬間、トイレのとびらの開かれる音がした。
視線だけをそちらに向けると、真っ赤な髪をした男と目が合った。
まさかここで会うとは思っていなかったため、お互いに目を見開く。
「……どうした」
先に表情を取り戻したのは赤い髪の男――五条だ。
近づきながらそうかけられた言葉に、口元に緩く笑みを浮かべながら外したボタンを留めようと手を引き寄せる。
だがその手首を簡単に五条に掴まれてしまったため、ボタンを留めることができなくなった。
「離して、ください」
「なにがあった」
「だからなにも――」
着ていたワイシャツのボタンが弾け飛んだ。
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