悪夢あげいん〜AKUAGE〜


 床を転がるボタンから五条へ視線を戻すと、彼の目が俺の肩に向けられていることがわかった。
 指の痕までくっきりと残っているそれを見て、五条はなにを思っただろう。
 ただわかることは、その赤い痕に五条が顔を埋めているということだけだ。


「なに、を」

「うるせぇ」


 痛む痕に這うこの熱いものは、五条の舌だろうか。
 ときどき吸い付いたり、甘く噛みついたりしてくるもんだから体が小さく震える。

 貞操の危機、と五条の肩に触れ体を引き剥がそうとするが離れない。
 さすがは不良、といったところか。
 ろくに運動もしていない俺じゃ敵わない。


「っも、勘弁してください」

「なら言えよ」

「な、に」

「誰にやられた?」


 ここで『転入生の零にやられた』、なんて言ったら五条はなにをするつもりなんだろうか。
 話したことで俺が平和になるなら、それはそれでいいのかもしれないが。
 でも俺のせいで零になにかをするというのなら、あまりいい気はしないかもしれない。
 零のことはどちらかというと苦手の部類に入るけれど、後味が悪い。

 そこまで考えた俺は開きかけた口を閉ざす。
 その瞬間、肩から顔を離し俺の目を見つめていた五条の手が、赤い痕の残っている肩を掴み上げた。
 かと思うとそのまま押され、バランスの崩した俺は上半身を洗面台へと倒してしまう。


(油断してた……!)


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