悪夢あげいん〜AKUAGE〜






 もし今、目の前に五条がいたら冷蔵庫の梅干しを口いっぱいに詰め込まれていることだろう。
 でも仕方がないと思う。
 零は俺よりも力があるし行動派、そしてなにより人の話を聞いてくれない。


「今日一日だけじゃ許さないからな!」


 俺の手首を痛いほどに掴み、食堂まで引っ張ってきた零の大きな声が無駄に食堂内に響き渡る。
 昼休み時間で、食べている人も多いんだから声のボリュームを下げて欲しいもんだ。


「あの、五条に言われたこと忘れてませんか?」

「一森! ちゃんと俺の話聞けよ!」


 お前もな。


「昼休み、一緒に食堂に行くって約束してただろ!」

「いや、してないですから」


 だから早く、手首を痛いほどに掴んでるその手を離してくれ。

 なんて、俺の想いが通じるはずもなく、眉間に深く皺を寄せた零は手首を掴んだまま食券の販売機の前までズルズルと。
 こりゃ肩だけじゃなくて手首にも痕残るな、なんて考えながら食券を購入する様子を眺めていると、なにやら視線を感じたため辺りを見渡してみる。
 と、こちらを見ている四之宮さんに気がついた。

 綺麗でやわらかな微笑みを消し、無表情にも近いその顔に喉の奥がヒュッ、と音を鳴らした。
 不良の五条よりも、微笑みの似合う四之宮さんの無表情のほうが何倍も怖かった。


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