悪夢あげいん〜AKUAGE〜
そんな俺の視線に気がついたらしい四之宮さんは、そこでようやくやわらかな微笑みを浮かべてくれた。
一瞬、辺りがざわついたような気がしたが、いつものことだからあまり気にしないことにしよう。
四之宮さんから視線を外し再び零を視界に入れると、ちょうど食券を取り出したところだった。
なにを食べようか、と考えながら尻ポケットから財布を取り出そうとしたその瞬間。
俺の手首を掴んでいる手が再び俺の体をズルズルと引っ張っていく。
だから痛いっつーの。
「あの、俺まだ食券買ってないんですけど」
「まだ買ってなかったのか? 一森はとろいな!」
「いや、販売機は一台しかないし。それにあんたが使って――」
「言い訳は聞きたくないって言ってるだろ!」
手首を掴んだままの零の手に力が込められ、あまりの痛さに口を閉ざす。
その隙に窓口へ歩き出した零の背中を見つめながら、俺は深く溜め息をこぼしながら引かれるままついていく。
「肉うどん一つ!」
「はい、ちょっと待っててくださいね。そっちの子は?」
やわらかな微笑みを浮かべながら零から食券を受け取った四之宮さんの顔が俺に向けられる。
返事をしようと開きかけた口は、なぜか俺の代わりに放った零の言葉によって閉ざされることとなった。
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