悪夢あげいん〜AKUAGE〜
昼休み時間が終わるまで食堂で零が騒いでいたため、俺は教室に戻ることができなかった。
とうとう五時間目が始まってしまい、人の気配がない静かな食堂内。
俺もそろそろ教室に戻ろうかと顔を上げたその瞬間、やわらかな声が厨房に響いた。
「一森くん。ちょっと話したいことあるからついてきてもらえる?」
「……今、授業中なんですけど」
「出るんですか? 転入生がいるのに?」
返す言葉が見つからなかった。
授業に出なきゃと思ってはいるけれど、できることなら零とは顔を合わせたくない。
いや、ただ顔を合わせるだけならまだいい。
休み時間にまたどこかへ連れられ、生徒会のみんなと会うことになったら?
(紹介したいとか言ってたし、あり得ない話じゃないから困ったもんだ)
授業をサボったらサボったで担任に呼び出されるだろうし。
俺に平和はないのか。
「ついてきてって、どこに行くんですか?」
「俺の部屋かな。そこなら誰かに見られる心配もないでしょ?」
それは確かにそうだけど。
渋っている俺になにを思ったのか、四之宮さんは俺からどんぶりを受け取りながらしゃがみ込んだ。
彼はいつものやわらかな微笑みではなく、真剣な表情で俺を見ている。
「一森くんに関わる大事な話なんだ」
「……俺に関わる?」
「そう。それでも一森くんは、教室に戻る?」
どんぶりの代わりに手渡されたコップの中の水を喉に流し込んでから、俺はゆっくりと口を開く。
「ついていきます」
一度サボったくらいなら担任には多分、呼び出されないだろうし。
それに、なにより俺に関わる話というのが気になる。
面倒な話じゃなきゃいいな、と考えながら俺は立ち上がった。
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