悪夢あげいん〜AKUAGE〜


「一森くん、ごめんなさい。待たせちゃったね」


 再びとびらが開かれ、そこから顔を出した四之宮さんの手には綺麗なデザインのカップが置かれているトレイがのせられていた。
 その瞬間、部屋に充満する紅茶のいい香りに、まるで四之宮さんのようだ、と勝手に思った。


「もし口に合わなかったらコーヒーにするから言ってね」

「あ、はい」


 紅茶の注がれたカップ以外に、市販のものか手作りか、綺麗なきつね色のクッキーが皿に盛り付けられていた。
 それを一枚、口へと放り込むとちょうどいい甘さが口内に広がる。
 そしてそれを流すように紅茶を喉へ通してから目の前の彼を見つめる。


「四之宮さん、俺に話したいことあるんですよね?」


 そう尋ねた瞬間、彼の顔から微笑みが消える。
 無表情にも近いその表情を見るのは二度目だった。


「十年前、この学園に通ってた生徒が自殺した」

「そう、らしいですね」

「その年にも転入生が入ってきたってことも知ってる?」

「あ、はい。その転入生が原因だったってとこまでしか知らないですけど」

「その転入生が連れまわしていた生徒が自殺したんだ」


 喉がヒュッ、と小さな音を立てた。


「毎年、生徒会は人気だった。もちろんその年もね」

「……生徒会が、転入生に話しかけたりとかは」

「話しかけた。生徒会室にだって呼んだ。抱きしめたしキスだってした。生徒会のみんなは転入生のことで頭がいっぱいだった」

「そんなことが一般の生徒にバレたら」

「うん、転入生と連れまわされてた生徒は制裁の対象になったんだ」


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