悪夢あげいん〜AKUAGE〜


 カップを握りしめている手に力を込める。
 わずかに両手が震えているなんて、そんなことないはずだ。

 だって十年前と今は違う。


「……四之宮さんは、ここに通ってたって言ってましたよね。それって十年前のことなんですか?」

「うん、十年前ここに通ってた」

「だからそんなに詳しいんですね」


 気持ちを落ち着けるように深く息を吐き出しながらゆっくりと、模様のない天井を見上げる。


「学校側ももみ消したかったんだろうけど、十年前のあの日の出来事は全校生徒の目に焼き付いてて消せない」


 なにがあったのか。

 そう尋ねようと四之宮さんへ視線を戻した俺は、開きかけた口を閉ざすことしかできなかった。
 今にも泣き出してしまいそうな顔を隠すように俯かせた彼に、いったい誰がそんなことを聞ける?


「……もう、あんなのは見たくない。だから、一森くん」

「耐えられなくなったら話しますから」


 そう放った言葉に、ここ最近聞いた台詞だと思い出そうとするが、それを遮るように四之宮さんの声が聞こえた。


「ありがとう。本当に、ありがとうございます」


 震えた声が、鼻をすする音が辺りに響く。
 それだけで四之宮さんがどれだけ傷を負ったのかがわかる。
 そんな四之宮さんを見ていられなくて、俺は手にしていたカップを元の位置へ、空いた手を伸ばし彼のやわらかな髪を撫でた。

 十年前と今は違う。
 そう思っているのに、この不安はなんなのだろう。
 わからない。

 それでもただ一つだけ、わかっていることがある。
 俺はきっともう平和にはなれない。


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