悪夢あげいん〜AKUAGE〜
叶うなら、二年前の自分にこの学園だけは絶対に受験するな、と言ってやりたい。
『この学園』というのはもちろん俺が今、通っている学園のことだけれど。
どうしてこんなことになった?
生徒会と関わらないように、なるべく零と関わらないように避けていたはずだ。
「零は本当に可愛らしい方ですね」
「七瀬は綺麗だよな! 一森もそう思うだろ!」
ソファに腰を落ち着かせている俺の隣には零、そしてその零の隣にはやわらかな微笑みを浮かべている副会長の姿が。
その背もたれから零の頭に顎をのせているのは一言で『チャラ男』と表すことのできる会計の八賀(はちが)。
零の太ももに跨っているのはこれもまた一言で『男の娘』と表すことのできる書記の九蘭(くらん)。
遠くから睨むように俺を見ているのは生徒会長の六宗(むつむね)。
そう、今俺がいるこの場所は避けていたはずの生徒会室だ。
四之宮さんとの会話から一週間。
五条との夕食のためにコンビニで材料を選んでいたとき、今まで避けていた零に声をかけられたためその横を通り過ぎようとした。
だがその瞬間、腹部に感じた立っていられないほどの痛みに手にしていた買い物カゴを落とし、俺はそのまま零に引きずられこの部屋に来てしまった。
(……油断してたな)
この状況からどう抜け出そうかと考えていると突然、頭部に感じた容赦ない痛みに思わず声を上げその部分を押さえつつ辺りを見渡すと冷めた目で俺を見下ろしている会計の八賀と目が合った。
「零ちゃんが話しかけてやってんのに無視とかありえないんだけど?」
「そうだ! なんで無視するんだよ! 一森は本っ当、ひどい奴だな! だから俺以外に友達いないんだぞ!」
「そんな奴でも友達って言ってあげる零ちゃんは優しいねぇ」
『ますます惚れちゃうー』なんて零のマリモ頭に顔を埋める八賀にバレない程度に溜め息をこぼした瞬間、顔に冷たいなにかがかかり思わず一瞬だけ呼吸がとまった。
手の甲でそれを拭ってみるとどうやらただの水らしい。
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