悪夢あげいん〜AKUAGE〜
「手が滑っちゃった」
隣から聞こえた女の子のようなボイスに水をかけた犯人がわかった。
「うわ! 一森大丈夫か?」
「それくらいじゃ風邪引かないよね? 喉渇いてるから水汲んできてー」
頬に押し付けられるガラスのコップに手を伸ばす気が起きない。
どうして生徒会役員からこんな扱いを受けているのかなんて、考えなくったってわかる。
「転入生に惚れてるからって俺は関係ないじゃないですか」
認めたくはないが、十年前と同じように生徒会役員は転入生の零に惚れている。
そしてこのまま行けばまたもや同じように生徒会に近付き過ぎたということで俺は親衛隊から制裁を受けることになる。
ただでさえ今でも騒がしい零に話しかけられているということで目を付けられているというのに。
「俺は平和に過ごしたいんです。なので転入生とも関わりたくない、ということなんでもう失礼します」
水で滴らせたまま頭を下げ、ようやく腰を持ち上げ扉へ向かって歩き出した、つもりだった。
なにかが俺の制服の裾を引っ張っているせいで、歩くことができない。
そちらを見遣ってみると、三人の生徒会役員に囲まれている零が俺の制服を掴み顔を向けていた。
表情は相変わらずのマリモヘアーのせいでわからない。
だがなんとなく、俺の制服を掴んでいる手の強さから怒っているのではないかと勝手に予想した。
「俺は、俺は諦めないからな。ずっと一森と一緒にいてやる!」
勘弁してくれ。
さすがにそう言葉にすることはなく、制服を掴んでいた彼の手を引き剥がせば濡れたまま俺は生徒会室を後にした。
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