悪夢あげいん〜AKUAGE〜


「なにがあった」

「……いや、今ちょっと急いでるんで──」


 手首に走っていた痛みが緩まれたかと思うと、突然の肩への衝撃。
 突き飛ばされたんだと気付いたのは背後の壁に背中をぶつけてしまったからだ。
 五条の腕が俺の胸部を押さえるように、もう一方は濡れている俺の前髪を掻き上げるように。


「このまま犯されたいのか?」

「それは勘弁してくれ」


 そう俺の心の声を代弁してくれたのは先ほど絡んできていた三牧先生だ。
 玄関の扉の閉じる音が聞こえないなと思っていたら、その扉に彼は寄りかかりこちらを見ていたため納得した。
 突然、聞こえてきた俺のではない声にさすがに驚いたのか、俺に触れていた力が緩まれた隙を狙い距離を置く。
 五条の目が一瞬だけ俺を見遣るもすぐにその目は扉に寄り掛かったままの先生へと向けられる。


「テメェに関係ねぇだろ。出て行けよ」

「そうしたいところだが一森には早くやってもらいたいことがあるからな」


 あの、とりあえず濡れた制服を着替えてもいいですか。


「やってもらいたいことってなんだよ」

「それこそお前には関係のないことだな」

「テメェ……」


「へぶちッ!」


 うん、俺は悪くない。
 二人とも目を丸くして俺を見ているけど、濡れたまま放置されていた俺は被害者だ。


「……着替えてきていいですか」

「手伝ってやろうか」


それは丁寧にお断りします。


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