悪夢あげいん〜AKUAGE〜


「……あの、なにしてるんですか」

「舐めてるに決まってんだろ」

「それはわかるんですけど……ッ」


 容赦なく首を強く噛まれ、思わず言葉に詰まってしまった。
 痛みに深く眉間に皺を刻みつつ、未だに首に歯を立てている彼の体を引き剥がそうと肩に触れてみるが全く動かない。
 運動してこなかったことをこんなにも悔やんだのは今日で何度目だろうか。


「アイツに関わるなっつったよな」


 突然なんの話だ。

 五条が言葉を放ったことで首に立てられていた歯が離れれば、安堵の息を溢してから彼の肩に触れていた手で赤く痕が残っているであろうその部分を押さえる。
 押さえたまま近い距離の五条へ視線を移すと、彼も俺を見ていたらしく吊り目気味のそれと目が合った。
 なにも言わせないような、強い眼力に一瞬だけたじろいでしまうが言葉を放たない訳にはいかない。


「零のことを言ってるんでしたら俺だって関わりたくて関わってるんじゃないですよ。むしろ関わらなくて済むならそうしたいくらいです」


 そして俺に平和が訪れてくれれば万々歳。
 と、言いたいところだけど、生徒会と関わってしまった時点で俺に平和が訪れないことはわかっている。
 だからこれ以上、色々なことが悪化してしまう前に関わらない方法を本気で考えないと。

 そこまで考えては俺と五条の間にわずかにできていた隙間に体を滑り込ませ、なんとか彼から体を離し先ほどから感じていた空腹を満たさなければとキッチンへと向かう。
 そんな俺の後ろを五条がついてきているような気がするが、気にしないでおこう。

 五条の視線を感じながら冷蔵庫の残り物で二人分の具だくさんのラーメンを完成させる。
 それをリビングへ運びいつもの椅子へと腰を落ち着け、無言のまま二人で麺をすする。
 もうちょっと卵を半熟にしてもよかったな、なんてことを考えながら卵を頬張ったその瞬間、座っていた椅子を強く蹴り上げられ、驚きのあまり思わずむせてしまった。


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