悪夢あげいん〜AKUAGE〜
「な、なんですか?」
むせながらそう尋ねるが、彼は一瞬だけ俺を見遣ったあと麺をすするだけで言葉を続けない。
蹴られ損か。
なんて、五条相手に喧嘩を売るような言葉を放つわけもなく、再び麺をすすろうとしたその動きは尻に感じた二度目の痺れによってとめられる。
ガンガンと、容赦なく椅子の脚を蹴る五条をどうにかしてくれ。
無視して食べてもいいんだけど、口に運ぶはずが反動で鼻に入っても嫌だしな。
「……あの、言いたいことあるなら言って欲しいんですけど」
箸をどんぶりへと戻し、短く息を吐き出してからそう告げると蹴り上げられていた椅子からの振動がなくなった。
かと思うと、次に聞こえてきたのは大きめの舌打ちだった。
怒らせないように気をつけたつもりなのに、おかしいな。
しかし舌打ちをしたからといって怒鳴るわけでもなく、言いたいことを言ってくれるわけでもなく。
食べ終えたラーメンの丼を乱暴気味にシンクへ置く音に、割れてしまったんじゃないかとそんなことを考えながら、部屋へ戻っていく五条を見送っては深く息を吐き出した。
なぜかラーメンを最後まで食べ切ることができなかった。
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