悪夢あげいん〜AKUAGE〜


 俺が動き出したことで再び辺りに賑やかさが訪れれば安堵の息をこぼしつつ、月見そばの食券を購入してはやわらかな微笑みを浮かべていた四之宮さんへ歩み寄り食券を手渡す。
 それを受け取った彼は振り返り、『月見そば一つお願いします』と告げたかと思うと再び俺へ顔を向けてきた。


「一森くん、なにかあったでしょ」


 やわらかい微笑みを浮かべているのに目だけは笑っていなかった。
 そんな彼に一瞬だけ言葉に詰まったあと、視線を泳がせ短く息を吐き出した。


「……まあ、大変不本意なんですけど昨日零に捕まってしまいまして」

「連れて行かれたんですか?」

「そう、なりますね」


 認めたくはないが、殴られ意識を飛ばしている間に零は俺を生徒会室まで運んだのだろう。
 そしてその姿を誰かに見られた。
 だから今日、俺に向けられる目にこんなにも嫌悪の色が染まっているのだろう。


「このままだときっと俺、やばいですよね」


 この学園内で唯一心を許せる相手だからか、らしくもなくそう弱音を言葉にすると四之宮さんはゆっくりと口を開いた。
 だがそこから言葉が放たれる前に食堂内に黄色い声と野太い声が響き渡り、喉がヒュッ、と渇いた音をこぼした。

 なぜか。

 響き渡る声に罵声が混じっていたからだ。


「一森発見!」


 朝から姿を見ていなかったから油断していたのかもしれない。
 昨日あんなことがあったんだから食堂よりはまだ人の少ない教室で食べるか、寮に戻るべきだった。

 四之宮さんが口を動かしているがなにを言っているのか、言葉が耳に入ってこない。
 肩が痛いのは、誰かに掴まれているからか。


「無視するなよ!」


 体を反転させられた。
 視界に、マリモヘアーのおかげでわかりづらいが拗ねたような表情を浮かべている零と、周りには睨むように俺を見ている生徒会、さらに周りには嫌悪の目を俺と零に向けている一般の生徒たちが映る。


「一緒に飯食おう!」


 どれだけ突き放せばお前は離れてくれるんだ。


  top