悪夢あげいん〜AKUAGE〜
そう言葉にしたかったのに肩を掴む力の強さに顔をゆがめ、辺りから感じる数十もの目に奏でられたのは唾を飲む音だけだった。
生徒会役員専用のテーブルへ引きずられながらも背後へ顔を向けると、月見そばであろう丼を手にしている四之宮さんが微笑みも浮かべず俺たちを見ていた。
生徒会役員と食堂でご飯を食べての感想は、とにかく痛くて熱かった。
無理やり零の隣に座らされた俺は、向かいに座った会計の八賀にテーブルの下で何度も足を蹴られた。
その反動で揺れる俺を不思議に思った零が『寒いのか?』なんて聞いてきたときには本気で頭を殴ってやろうかと思った。
思っただけで行動に出すことができなかったのには理由がある。
口元から胸元にかけて熱いものを掛けられたからだ。
漂う匂いにそれがコーヒーだということがわかるが、掛けられるならコーヒーよりも昨日と同じただの水のほうがよかった。
「また手が滑っちゃった」
これは確実に火傷したな。
「うわ! 今タオルを──」
「零、オムライス持ってきましたよ。って、なんですかそのコーヒー臭いの」
零が言いかけている最中に副会長の七瀬が横から入ってきた。
コーヒー臭いの、というのはきっと俺のことだろう。
というより俺しかいない。
「いや、九蘭が手を滑らせてさ……って、オムライス美味そう!」
「そりゃそうですよ。僕の大切な人に、ってお願いしてきたんですから美味しくないわけがないです」
「大切な人って、恥ずかしいこと言うなよ!」
なんて言いながらオムライスを受け取り食べ始める零から視線を外せば、こちらを睨んでいた会長の六宗と目が合ったかと思うとまるで野良犬を追い払うかのような動作をした。
それに溜め息混じりに息を吐き出せば腰を持ち上げ、ようやくその場から離れた。
食堂を出る際に四之宮さんがこちらを見ていたことに気が付いたため、心配をかけないよう笑ったつもりだったがそのことに彼は気付いてくれただろうか。
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