悪夢あげいん〜AKUAGE〜


 そして冒頭に戻る。
 手や足に力が入らないため立ち上がることができない。
 例えできたとしても、今この状態で教室に戻りたいとは思えない。


「……どうするかな」


 昼休みの終わりを告げるチャイムを耳にしながらそう呟くと、少し離れた場所に丸められた紙くずが落ちていることに気が付いた。
 どうやらなにかが書かれているらしいそれを、震える手を伸ばし掴んでは指先で広げてみる。


「これは……」


 電話番号だ。
 誰のだろうか、と回らない頭をなんとか働かせると、ある一人の人物が浮かび上がった。

 それは零が転入してくる前のことだ。
 食堂でカレーを食べ終えた俺をいきなり拉致したかと思うと連絡先をくれて、耐えられないことが起きたら連絡しろと言ってくれた。
 あのときはどうしてこんな俺に連絡先をくれたのか全くわからなかった。
 けれど今ならなんとなくわかるような気がする。


「……知ってたのか」


 十年前の事件のことを知っていたから俺に連絡先をくれたんだろう。
 だとしてもまだ引っかかるところはたくさんあるけれど、今この連絡先に電話をかけたら来てくれるんだろうか。

 美形とは絶対に関わりたくないって。
 連絡先をもらったとき、絶対に電話はかけないって。

 そう、思っていたのに。


『今どこにいる?』


 電話越しから聞こえてきた、思っていたよりも優しげな声に思わず泣いてしまいそうになった。


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