悪夢あげいん〜AKUAGE〜






 その後、本当に校舎に足を運び空き教室に顔を出した寮長さんに、米俵のように担がれながら彼の部屋まで連れて行かれた。
 そして今、俺は寮長さんに怪我を見てもらっている。
 教室で倒れていた俺を見たときから制裁にあったことには気がついていたのだろう。
 ソファに降ろされた瞬間『脱げ』なんて言われ、新手のセクハラかと思ったのは言わないでおこうと思った。

 傷口に消毒液を掛けられるたびに痺れるような痛みが走り、眉間に深く皺を寄せながら小さく肩を震わせる。
 そんな俺の反応に気づいているのがいないのか、テキパキと治療を進め絆創膏、湿布を貼ってくれたことに感謝の言葉を口にする。


「あの、本当にありがとうございました」

「気にするな。で、コーヒーでいいか」


 ワイシャツのボタンを留めていると、聞き覚えのある問いに一瞬だけ手の動きをとめるもすぐに口を開く。


「……ミルク多めで、お願いします」


 ここで断っても、俺のコーヒーが飲めないのか、とまた言われてしまうことだろう。

 第一ボタン以外を留めてしまえば、コーヒーを用意しに行った寮長さんの背中を見送ってから小さな溜め息をこぼし天井を見上げ目を閉じる。
 なにも考えたくなかったし、なにも見たくなかった。
 次に目を開いたときには零が転入してくる前に戻っていたらいいのに、と願いしばらく目を閉じているが、聞こえてきた寮長さんの声に現実へと引き戻される。

 コーヒーの注がれた黒のマグカップを受け取り、それを一口喉へ流し込み気持ちを落ち着けるよう小さく息を吐きだす。


「寮長さんは、知ってたんですね」


 自分の分のコーヒーが注がれているであろうカップに口をつけている寮長さんの目が俺を見た。


「十年前のこと。だから俺に連絡先をくれたんでしょう」

「……ああ、そうだ」


 少しの沈黙のあと、放たれた短い言葉にカップを握りしめている手に力が込められる。
 この感情は苛立ちか混乱か、わからないけれど頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。


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