悪夢あげいん〜AKUAGE〜
「ここまできたんだ、話してやるよ」
『じゃないと納得しないだろ』と続けられた言葉に、手にしていたカップの中身を喉へと流し込んでから深く頷いた。
そんな俺の反応に、合わせていた視線を外し、どこか遠い目を浮かべながら口を開いた。
「十年前、俺はこの学校に通っていた。食堂の四之宮、お前のクラスの担任の三牧もだ」
四之宮さんがこの学校に通っていたことは知っていた。
寮長さんも、なんとなくそうなんじゃないかと思っていた。
けれどまさか三牧先生も十年前にこの学校に通っていたとは、驚いた。
「十年前にも同じように季節外れの転入生がやってきた。その転入生は自分勝手な行動を起こし、それなのに生徒会役員に好かれていた」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている彼に、かける言葉が見つからず俺は口を閉ざしたまま耳だけを傾ける。
「そしてその転入生はいつも隣の席にいた生徒を連れまわしていた。生徒会に近付く転入生とその生徒は制裁の対象になったんだ」
四之宮さんからも同じことを聞かされたけれど、現実のものとは思えない。
いや実際、自分の身にも起きているから認めざるを得ないんだけれども。
「だけどいつも生徒会と一緒にいる転入生に制裁を行うことはできなかった。代わりに連れまわされていた生徒が転入生の分まで制裁された」
「……制裁というのは、やっぱり」
「ああ。暴力、強姦、今の制裁と変わらないな」
聞いておいてなんだけど、やっぱり聞かなければよかった。
「誰もその生徒に手を差し伸べることはしなかった。関わったら制裁に巻き込まれることがわかってたからな。そしてそれから一ヶ月後だ」
その生徒は学校の屋上から飛び降りた。
「あの日、避難訓練があった。全校生徒が校庭に集まっているとき、みんなの前で、あの生徒は死んだんだ」
俯きながら放たれた寮長さんの言葉に、数日前に四之宮さんから聞かされた話を思い出す。
全校生徒の目に焼き付いてて消せない、と言っていたのはそういうことだったのか。
あの日あの場にいた四之宮さんや寮長さんが十年前のことを今でも引きずっていることには納得した。
「……でも三牧先生は零を気に入ってるみたいですが」
「それもちゃんと説明しないとな」
俯いていた顔を持ち上げ、再び俺の目を見た。
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