悪夢あげいん〜AKUAGE〜


「なんとかあの転入生をお前から引き剥がそうとしたんだ。それで三牧が嫌われ役を買って出たけど、やっぱり無理だった」

「やっぱりって」

「転入生がお前を付きまとうことはわかっていた」

「……なぜ」

「理由は二つある。お前の席が一番近かったからっていうのと、もう一つは転入生の兄が命を落とした生徒だからだ」


 それはつまり、


「復讐のために俺が狙われてるってことですか」

「そうなる。無関係のお前を巻き込むことになって悪い」


 俺の目を見ていた彼の目が一瞬だけ泳いだかと思うと、それを誤魔化すためか謝罪の言葉と一緒に頭を下げてきた。
 正直なところ、兄を失った零には同情する。
 だから零のすることに加担するかと言われたら、そんなことはお断りだ。

 今まで平和だけを望んできたのに。
 だから美形の人達とは関わらないようにして、隠れて過ごしてきたのに。
 こんなことなら、違う寮付きの学園にするべきだった。

 今さら、もう遅いけれど。


「……そういえば、五条は。四之宮さんたちのことを知ってるみたいですけど」

「ああ、アイツの兄が俺たちの同級生だったからな。アイツは俺たちのことを嫌ってる。理由はまあ、大体わかるけどな」


 そういえば四之宮さんのことを顔を見るだけで殴りたくなる、とか言っていたな。
 あのときは深く関わりたくないからと話を聞かなかったけれど、そういうことだったのか。

 すでに冷めてしまったカップの中身を見つめては深くため息をこぼしてからカップをテーブルの上へと、ソファに落ち着けていた腰を持ち上げながら口を開く。


「俺が制裁から逃れるには生徒会役員が我に返るか、零が退学するしかないってことですね」

「……ああ。理事長には俺から話してみるが、転入生が甥だから話を信じてくれるかどうか」


 同じように腰を持ち上げ、吐き捨てるように放たれた言葉に思わず口元が緩んでしまった。
 そんな些細な俺の変化に気がついたのか、寮長さんは顔をしかめた。


「なに笑ってんだ」

「いや、俺なんかのためにそこまでしてくれるなんて意外だなと思っただけです」

「俺は最初から心配してただろ」

「……そういえばそうでしたね」


 顔に布をかぶせられて拉致られたことは、今では笑い話になる。


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