不完全な俺ら




 俺は人生で三度、自殺を試みた。

 一度目は中学一年のとき。
 なにが原因だったのかは今でもわからないが、あの頃の俺はイジメにあっていた。
 トイレの個室に押し込まれ、ドアの上から水をかけられ全身ビショビショにされたときは、さすがに我慢できずに手首を切ろうとした。
 だけどカッターが見当たらず、探しているあいだに母さんに晩飯ができたと言われてしまったため切ることはできなかったんだけれど。
 しかもその次の日に水をかけた男子たちになぜか謝られてしまったため、死のうと思うことはなくなった。



 二度目は二年後の中学三年のとき。
 俺が生まれたときからずっと女で一つで育ててくれた母さんが事故で命を落としたときだ。
 あのときのことは今でも思い出したくはない。
 思い出せるのは、このときの自殺も失敗に終わったということだ。



 そして三度目。
 これは失敗したかどうかはわからない。
 なぜなら──、


「……風が強い」


 今、自殺の真っ最中なのだから。

 あれから三年後、親戚に育ててもらった俺は高校生になり今、夜の廃墟ビルの屋上に立っていた。

 まさか生きている中で三度も自殺を試みることになるとは思ってもいなかった。
 しかもその中の二度は失敗している。
 まるで死ぬことを許されないみたいに。

 しかし今は夜で、辺りに人はいない。
 俺の邪魔をするものはなにもないということだ。


「俺の人生は、なんだったんだ」


 呟いた声が夜空に響き渡り、思わず目の奥が熱くなってしまう。

 俺が迷惑な存在だってことくらいわかっていたはずなのに。
 昔から親戚には歓迎されておらず、可愛がられていないということくらいわかっていたはずなのに。


「早くいなくなれって、結構クルよなあ」


 面と向かって言われるならまだよかったのかもしれない。
 隠れてそう言われたからこそ、昔からそう陰口を言われ続けていたんだとショックを受けた。


「……未練がましいな、俺」


 昔のことや母さんのことを思い出してまでこの世界に居座ろうとする自分に思わず自嘲してしまう。
 けれどそれも一瞬だけで、俺は深く息を吐き出しながらフェンスもなにもない屋上の端まで足を運ばせると、何メートルも下のほうで次から次へと走っている車が視界に入る。
 例え俺がここから落ちても、数日後にはこの光景が戻ってくるのだろう。
 結局はなにも変わることのないことに思わず笑いながら、足を一歩、踏み出す。


「死ぬのか?」


 突然、背から聞こえてきた声に驚き振り向こうとするがすでに遅く、俺は廃墟ビルの屋上から身を投げ出していた。
 落ちているはずなのに、全てがスローモーションに見える。

 さっき声をかけてくれた人は一体、誰だろう。
 いつから屋上にいたんだろうか。
 もしかして俺の独り言を聞かれていた?
 もしそうなら少しだけ恥ずかしい。
 落ちる直前に声をかけるくらいなら、もうちょっと早くに声をかけてくれればよかったのに。

 そんなことを考えては体全体に走った痛みを一瞬だけ感じ、俺はこの世を去った。