これはいけないことですか。


 本当になにもしていないのに男子を襲った可能性があるからと三日間の謹慎を命じられ、今日はその一日目だ。
 謹慎中は部屋から出てはいけないらしく、俺はすることもなくベッドの上で仰向けになっていた。

 本当なら謹慎は授業をサボれるから嬉しかったりはする。
 でも気分がこんなにも落ちているのはやっぱり潔白を証明できなかったからで。
 信じて、もらえなかったからで。

 垣副先輩が俺に謹慎を告げる前の風紀委員長の溜め息はどういう意味だったんだろう。
 迷惑がられた?
 それとも少しでも心配してくれましたか?


「んんん……」


 なんだか面倒くさい思考になりつつある。
 考えれば考えるほど落ちていくような。
 あまりよくない傾向だ。

 気分転換にスマホでもいじろうかとヘッドボードへと手を伸ばす。
 その瞬間、突然この部屋の扉が開かれ驚き体が大きく跳ねた。
 勢いよく開かれた扉のほうへと顔を向けると、そこには学校指定の黒のジャージを身に着けた軽井が立っていた。


「び、っくりした」


 せめてノックはしてくれ、と言葉を続けるよりも先に軽井が俺の隣へとうつ伏せに倒れ込む。
 そして片腕をこちらへ伸ばしてきたかと思うと肩を掴まれ、そのまま軽井の腕の中へと閉じ込められてしまった。
 頭上から小さな溜め息が聞こえる。


「今日はひらっちという癒やしがなかった……」

「俺はお前の癒やし要員だったのか」


 思わず笑っていると、向かい合わせのまま抱き締めていた軽井がゆっくりと顔を近付けてきたことがわかる。
 なにをしたいのかすぐに理解した俺はわずかに目を伏せそれを受け入れる。

 重なるだけの可愛い口付け。
 角度を変え何度も繰り返される。


「……なあ」


 しばらくして、上唇がくっついたまま状態で軽井が口を開いた。


「深いやつ、していい?」


 まさかわざわざそんなことを聞いてくるとは思わなかった。
 最初の口付けのとき俺が嫌がっていたのを少しは気にしているんだろうか。
 軽い男だと思っていたけどそういうところは意外と気にするんだなと思いつつ、軽井の問いかけに返事はせず舌先でこいつの唇を舐めてやる。


「ひらっち……」


 唇が深く重なる。
 お互いに唇を開き、舌を奥深くまで絡ませる。
 少しだけザラついている軽井の舌が気持ちいい。

 舌の裏側まで舐めるそのいやらしい動きに思わず声が上がりそうになれば、仕返しにと少しだけ口をすぼませ軽井の舌に吸い付いてやる。


「は……ひらっち、やらしー」

「お前も、だろ」


 ベッドの上で抱き締められていたのが、いつの間にか軽井が覆いかぶさる体勢になっていた。
 重なっていた軽井の唇が頬、耳、首へと滑らせるように移動していく。


「ん……軽井、待った」


 これ以上は自分があまりよくない。
 体が熱くなってしまう前にと声をかけるが、返事はしてくれず退いてもくれず。
 首筋を上から下へと唇が移動すれば俺の喉が大きく震える。


「か、るい」

「俺はちゃんとわかってるよ」


 喉を甘噛みされた。


「平江はなにもしてない。俺は、ちゃんとわかってる」


 首の根元をぬるりと舐められ、思わず熱い息がもれる。

 そこで名前を呼ぶのはズルすぎる。
 まるで俺の気持ちを見透かすようにそんなことを言って。
 軽井に抱かれる人の気持ちが少しだけわかった。


「か、軽井。これ以上は、まずいって」


 こいつの舌が根元から喉仏を。
 手のひらがスウェット越しに俺の腰を撫で、全身の毛が逆立った。
 さすがにこれ以上は、と軽井の肩に手を置いて引き剥がそうとしてみるが、久しぶりの感覚に手にあまり力が入らない。


「思い詰めてる平江を見たくない」


 いつものお前はどこにいったんだよ。
 なんでそんなに俺の中に入ってくるんだよ。


「なにも考えられないようにしてあげるから。だから」


 平江は目を閉じてるだけでいい。

 芯にまで響いた優しく囁かれた言葉に、肩に触れたままの手をゆっくりと下ろした。




  (終)


9.どう思いましたか。 top