シロクロデイズ〜first day〜
その後、牛乳にバナナと健康的な朝ご飯を食べ終えた俺は学生鞄を肩に人気のない室内を見渡してから玄関へと向かう。
「行ってきます」
そういつもと同じように放った言葉がいつも通り静かに響いた。
外へ足を踏み出すと心地よい風が、眩しいほどの青空が俺を襲う。
春。
俺はこの季節が好きだ。
始まりがあって、終わりのある季節。
ならいつの季節が嫌いか。
それはもちろん、冬に決まってる。
三年前のあの出来事から俺は冬が嫌いになった。
「クーロちゃん、おっはよー」
聞き慣れた声。
あまり好きではないあだ名。
チャラチャラとした軽い口調。
「はよーさん。今日もお迎えか?」
「もちろん、お姫様を迎えに行くのが王子様の役目でしょ?」
コイツは赤嶺(あかみね)、俺の小学校の頃からの幼馴染みでタレ目に赤い髪が特徴的な男だ。
ずっと一緒にいて中学、高校と来たはずなのにどこをどう間違えたのか、赤嶺はバイになってしまった。
カミングアウトされたのは中学校を卒業する数ヵ月前。
『クロちゃん、俺バイだったみたいなんだぁ』
なんてヘラヘラと笑いながら言われたときは、飲んでいた牛乳を本気で吹き出したものだ。
そしてそんな赤嶺は俺が情報屋だということを知らない。
『白狐のシロ』という名前くらいは知っているかもしれないが、間違っても自分からその話題を振るほど俺は馬鹿ではない。
「誰がお姫様だ、誰が」
「そんなに照れなくていいんだよ? クロちゃんは可愛いんだからー」
「うぜぇ」
相変わらずヘラヘラと、腹ではなにを考えているかわからない笑みを浮かべながら俺の頬を突っつく彼の手を弾いてやるが、未だ彼は笑みを浮かべたままだ。
「クロちゃん、今日はどうする?」
「あー、サボるかな。つかいつもサボってるだろ」
「確かにねー。それでいつも俺がフォローしてるんだよね」
「それについては、感謝してる。今度なんか奢るよ」
「食い物で釣られるほど俺は安くないけどね。まあ、食い物に罪はないからありがたく奢られるけどー」
中学時代から学校をサボることはあったが、高校に入ってからその回数が増えた。
情報を収集したいというのはもちろん、ただサボりたいというのも本当だ。
実際、やることがないときなどは屋上で眠ったりしている。
「んじゃどっか遊びに行くかな」
「クロちゃん、俺はイチゴミルクね」
「はいはい、んじゃな」
小さなあくびをこぼしながら、未だヘラヘラと笑う赤嶺に緩く手を振りながら背を向けては一番近い曲がり角を曲がっては立ちどまる。
誰もいない細道。
どこからも足音が近づいてこないことがわかると、ゆっくりと歩を進めながら肩から下げていた鞄から白狐のお面を取り出す。
かれこれ何年もお世話になっているそのお面で自分自身の顔を被っては、視界が狭くなり気持ちがシロへと切り変わる。
「さて、行きますかね」
この時間帯の金久保の行動は……アイツふらふらしてるからな。
俺もふらふらしてりゃそのうち見つかるだろ。
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