シロクロデイズ〜first day〜







 俺は今、金久保と他の族との喧嘩を眺めていた。
 あの後、本当に適当にふらふらと歩いていたら見覚えのある後ろ姿が目にとまったため、近くの塀、そしてそこから木の上へと上ってその行動を見つめていたら喧嘩を吹っかけられていたのだ。

 広い肩幅が。
 綺麗な金色の短い髪が。
 相手の攻撃を避ける動きが。

 全てが俺に鳥肌を誘う。

 もう少しだけその流れるような動きを見ていたいと思っていても時間は流れてしまうもので、金久保に喧嘩を売った族は全て地面に突っ伏していた。
 金久保自身にも、相手の族にも怪我がないところを見ると急所だけを狙ったのだろうか。


(……すげぇな)


 俺はなにかあったらいつも逃げているため喧嘩のことはよくわからないが、金久保が強いということはわかった。
 まあ、強くなきゃ総長になれないだろうが、並大抵の強さじゃない。
 そして強さの中にも美しさがある。
 これなら金久保が総長になったというのも頷けるってもんだ。


「おい」


 喧嘩が強くて総長で、そして落ち着きがありカッコいい。
 きっと金久保も女にモテる部類だろう。


「おい」


 さっきから金久保が誰かに話しかけてるみたいだけど一体誰に話しかけてるんだ?
 つか、アイツどこ行った?


「おいっつってんだろ、木に上ってるやつ」


 驚きのあまり上がりそうになった声を我慢した俺は偉いと思う。
 というか、なんで金久保が木の根元にいて俺を見上げてるんだ?


「まさかバレていないとでも思ってたのか」


 思ってたよ、この野郎。

 とはさすがに言わず、金久保には気づかれないほど小さく溜め息をこぼしては木から塀の上へと移る。
 そんな俺の動きを追うように彼の瞳がゆっくりと動く。


「バレたんで言ってしまいますけど俺、情報屋ですんで」

「あ?」

「一週間、金久保さんを監視するんでよろしくお願いします」


 塀から金久保の目の前へと飛び降り、お面越しからでもわかるほどの微笑みを浮かべながらそう言葉を続けると目の前の彼はどこか不機嫌そうに目を細め、ゆっくりとした動作で俺の顔へ手を伸ばしてきた。
 逃げるのを得意とする俺は俊敏な動きでその手から逃れては、外そうとしていたであろうお面に触れる。
 外されていないのはもちろん、少しも動いていないことがわかると思わず安堵してしまう。


「金久保さん、いきなりお面を外そうとするなんて失礼じゃないですか?」

「……俺を監視するっつーお前に言われたくないな」


 ごもっとも。


「というか、なんで監視されるのか気にならないんですか?」

「情報屋のやることをいちいち気にしてたらきりがない。白狐のやることなら尚更、な」


『白狐のシロ』は自慢じゃないがこの辺りでも有名だとは思っていた。
 が、まさかあの金久保の耳にまで入っているとは、さすがに予想外だった。


「いいんですか? なら俺、金久保さんの後ろついて歩きますよ?」

「勝手にしろ。ついて来れるなら、だけどな」


 今まで無表情だった金久保の口角の持ち上げられた意味がわからず、先を歩く彼の背をしばらく見つめては少しだけ距離を置きながらようやく後を追うように歩き出した。


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