シロクロデイズ〜first day〜


――――

 外見は綺麗なバーの前で俺は立ち止まっていた。
 そして目の前には嫌らしい笑みを浮かべている金久保の姿が。


「どうした、入らないのか?」

「入るもなにも、ここ金久保さんの族の溜まり場じゃないですか」

「よくわかってるな」

「入ったら殴られるの目に見えてるんで遠巻きに監視させてもらいますね」


 シロとしてのやわらかい微笑みを浮かべながら彼に背を向け歩き出した。

 はずだった。

 突然、誰かに襟首を掴まれたかと思うと、なぜか自分の体は後ろへ後ろへと引っ張られていく。
 首を限界まで背後に捻ってみると、そこには俺の襟首を掴みバーへ入っていこうをしている金久保がいた。


「あの、離して頂けるととても助かるんですが」

「あ? 俺の情報が欲しいんだろ?」


 そう言われてしまうと口をつぐみそうになってしまうが、ここは情報屋の腕の見せどころだ。


「金久保賢(まさる)。小学生の頃にヤンチャな父親に無理やり髪を金色に染められ、そのせいで不良に喧嘩を売られて買っていたらいつの間にか族の総長になっていた。嫌いなものは裏切り者と空を飛ぶ虫。好きなものは――……うおっ」


 いつの間にか襟首を掴んでいた手が離れていたため言葉を続けながら振り向くと、顔目掛けて振り上げられる金久保の拳にわずかに目を見開いてしまえばらしくもなく声を上げながら一歩、後ろへ下がりその殴りを避ける。
 金久保の顔が赤いように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
 族の総長といえども、照れるときは照れるのか。


「なにそんな恥ずかしがってるんですか。俺だって甘いものは好きです、よっ」


 再び振り上げられた拳。
 ワンパターンだな、と内心呟きながら先ほどと同じように後ろへ下がろうと足を引いた。
 つもりだったのだが、なぜか後ろに下がることができない。
 それはきっと俺の背に邪魔をしているものがあるからで。
 背から伝わる温かさにそれが人間だということがわかる。
 ゆっくりと、首だけを動かして振り向いてみると、そこには赤い髪の持ち主が。


「総長、なに面白いことしてんのー」


 赤嶺、どうしてお前がここにいる!


 お面を被っている俺が口に出してそう言えるはずもなく、相変わらずのヘラヘラとした笑いを浮かべている彼をどこか呆然とした様子で見つめていると、突然腹部に感じた鈍い痛みに前屈みになってしまう。
 足が小刻みに震え出して、頭にまで響くほどの耐えられない痛みに呼吸が乱れて。

 チクショウ。
 他の族には急所を狙ってたくせに、俺には腹かよ。

 つか、今意識飛ばしたら色々とヤバくないか、俺。
 でもダメだ。
 瞼が、落ちていく。


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