シロクロデイズ〜first day〜







 遠くで声がする。
 クロちゃん、クロちゃんって。
 あまり好きじゃないこの呼び方をするやつは一人しかいない。


「ん……赤嶺、もう少し寝させてくれ」

「だーめ。早く起きないと、みんな待ってんだから」

「あと、十分だけ」

「クロちゃん、早く起きないとクロちゃんが白狐のシロだってバラしちゃうよー?」


 その言葉で一気に眠気の覚めた俺は勢いよく目を開き体を起こす。
 視界が広い。
 まさか、と内心冷や汗をかきながらそっと自分の顔に触れてみると、被っていたはずのお面がない。


「おっはよー、クロちゃん」


 響く、聞き慣れた声にビクリと体が小さく震えた。
 恐る恐るといった様子で声の聞こえたほうへ顔を向けてみると、いつも通りヘラヘラと笑っている赤嶺の姿が。
 そんな彼から流れるように室内を見渡すが、どうやらここは俺の知らない部屋らしい。
 そしてその部屋の隅にある革張りで黒色のソファの上で俺は上半身だけを起こしていた。


「……赤嶺、ここは」

「ここは俺たちの溜まり場。さっきクロちゃんが入りたがらなかったバーって言ったほうがわかりやすいかな?」


 笑みも崩さずに赤嶺の口から放たれた言葉に、もうどれくらいの時間が経ってしまったかわからない先ほどの出来事を思い出した。
 金久保の族の溜まり場のバーに突然、赤嶺が現れて、そのことに驚いている間に金久保に腹を殴られて気を失ってしまったんだった。
 そしてそのとき、俺はお面を被っていたはずだ。


「赤嶺、お前まさか――」

「まさかクロちゃんが白狐のシロだったなんてねー」


 聞きたくなかった、それでいて予想していた通りの言葉に思わず頭を抱えたくなった。
 赤嶺のことだ。
 きっとここで誤魔化そうとしたも全く意味がないだろう。
 それほど赤嶺は昔から頭の切れるやつだった。


「バラされたくないでしょ?」

「……なにが欲しいんだよ」


 そう問いかけた俺の言葉に、へらへらと笑っていた彼の笑みが深くなった気がした。


「クロ――んーん、シロちゃんには俺たちのチームに入って欲しい」


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