シロクロデイズ〜first day〜


――――

 心地よい風が吹く屋上。
 そういえば白柳先輩と初めて会ったのも屋上だったな、と見覚えのある後ろ姿を見つめながら考える。


「先輩って屋上好きですよね」


 閉じられた扉の横のコンクリートの壁に寄り掛かりながら声をかけると、俺の存在に気がついていなかったらしく彼の肩が小さく震えたことがわかった。
 それでも彼はこちらに顔を向けることはなく、フェンス越しから街並みを見つめていた。


「お前も好きだよな、屋上」

「そうですね。風が気持ちいいし一般生徒は怖がって屋上に来ないから独占できるし」

「相変わらずだな」


 本当に可笑しいらしく、くつくつ笑う先輩に思わず表情を緩めていると、ようやく彼が顔を、体をこちらに向けてきた。
 ガシャン、という音を立てながらフェンスに寄りかかった彼の瞳の中に俺の姿が映る。


「シロ、どうしてチームに入った?」

「……もう話伝わってるんですね」


 情報の伝わる早さに内心驚きながらもそう言葉を放っては、どういう理由にしようかと違和感のない程度の間を開ける。
 開けた間で頭をフル回転させてみた。

 当たり前だが赤嶺に正体がバレただなんて言えるはずがない。
 それなら、この理由しかないな。


「情報をいただきに来たんです」


 嘘はついていない。


「お前、わかってるのか?」

「なにをですか?」

「俺たちのチームで裏切りは絶対に許されない。情報を提供するのだって裏切り行為になる」

「それは知ってますよ。金久保さんが裏切り者を嫌っているからでしょう?」

「お前はっ……やっぱりお前はなにもわかっちゃいないッ!」


 突然、声を荒げる姿に、さすがの俺でもポーカーフェイスを保っていられず目を大きく見開いた。
 中学のときからずっと冷静沈着だった彼がこんなにも苛立って、それでいて泣きそうな表情を浮かべているのを見て、誰が落ち着いていられるだろうか。


 下校する生徒たちの騒ぎ声がやけに耳につく。
 もうそんな時間だったのか、とぼんやりとする頭の中でそんなことを考えていた。

 長い長い沈黙。
 先に口を開いたのは、どうやら落ち着きを取り戻したらしい白柳先輩からだった。


「……昔、俺たちのチームに裏切り者がいたんだ。ソイツはチームに制裁という名の暴力を受けた。ほんっと、あれは今でも思い出したくねぇな」


 情報屋の俺でも知らない昔のチーム内での出来事を思い出し彼はなにを思っているのか、クシャリと顔をゆがめてから俯いた。


「……白柳先輩、俺がその人と同じ失敗を繰り返すと?」


 その問いに返事はなかった。
 それだけでそれが肯定だということがわかる。
 どうやら心配してくれている先輩の様子に、気づかれないほど薄く口元に笑みを浮かべてはゆっくりと彼へ歩み寄り、その隣へと立つ。


「先輩、情報屋が最高の情報を奪って死ぬって素敵だと思いませんか?」

「お前――、……っごめんな」


 言いかけた言葉を続けることなく、なぜか謝罪した先輩に思わず小首を傾げてしまうと、俯いたままの彼の大きな手のひらが俺の頭を乱暴に撫でた。


第一話 完。


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