シロクロデイズ〜second day〜
――――
「シーロちゃん」
これでいったい何度目だろうか。
遠くから聞こえる学校のチャイムの音を聞きながらそんなことを考えていると、聞き慣れた声、背後から抱きつかれる感覚にわずかに眉尻が揺れた。
お面を被っている俺の表情の変化に気がつく人なんているはずもなく、俺の背中に抱きついている人物は『んふふ』なんて機嫌のよさそうな声をもらしている。
「シロちゃん、なにか飲んでたの? バナナ味のカクテル? バナナが好きとか、シロちゃんはイヤらしいねぇ」
「赤嶺さん、それセクハラって言うんですよ」
「えー、いいじゃんいいじゃん。俺とシロちゃんの仲なんだし?」
ただの幼馴染みだろ、と言ってしまいたいのをなんとか堪え、ポーカーフェイスを保ちながらゆっくりと首だけを動かし振り返ってみると、そこには赤嶺と白柳先輩の姿が。
昨日、バーでは見かけなかった先輩の姿に、本当にチームの仲間だったのかと考えると、彼が呆れたような表情を浮かべていることに気がついた。
「白柳先輩、昨日ぶりです」
「ああ。そういや金久保を見なかったか?」
「金久保さんなら奥の部屋にいましたよ」
俺が指を差した先を見た彼はわかった、というように一度だけ頷いてからそのまま奥の部屋へ姿を消した。
金久保、ね。
俺は金久保と白柳先輩の関係を知らない。
もちろんだが、俺の背中に抱きついたままの赤嶺と金久保の関係も。
二人がチームに入っていることを昨日、知ったばかりだから仕方がないとは思うが。
「赤嶺さん」
「ん?」
「赤嶺さんの中に深入りしていいですか?」
普段の俺だったらこんなことは聞かない。
相手の返答なんか聞かないで、相手の知らないところで情報を手にしているところだ。
しかしそんな俺が赤嶺にそう聞いているのは、やっぱり幼馴染みだからなんだろう。
奥の部屋から赤嶺へ視線を移した俺の言葉を聞いた彼は、垂れている目を珍しく少しだけ見開いたかと思うと、すぐにその目を細め顔を寄せてきた。
「もちろん大歓迎ー。……シロちゃんとして俺の情報が欲しいんだとしても、嬉しいよ」
俺の耳元で、すぐ近くにいるマスターには聞こえないほど小さな声で囁かれた言葉に今度は俺が少しだけ目を見開いた。
(……本当、なに考えてんだコイツは)
赤嶺は終始ヘラヘラと笑っていた。
なにを考えていたのか俺でもわからない。
ポーカーフェイスはアイツのほうが上手いと思った。
「シロちゃん、もうお昼だよ」
「ああ、もうそんな時間だったんですね」
考え事をしていたせいで全く時間なんか気にしていなかった。
奥の部屋へ顔を向けても、白柳先輩と金久保が出てくる気配はない。
だから俺は『ファミレスに行こー』なんて言う赤嶺の言葉に迷うことなく頷いた。
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