シロクロデイズ〜third day〜


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 朝食を食べ終えた赤嶺は学校に、俺は白狐のお面を被りここ数日お世話になっているバーへ向かっている。

 白柳先輩はいったいどこにいるのか。
 もしかしたら学校の屋上かもしれない。

 などと考えながらバーへととびらを潜り、辺りを見渡してから奥の部屋も覗き込む。
 と、そこには昨日と同じようにソファへ腰を落ち着かせながらカラフルなカクテルを飲んでいる金久保の姿が。


(生きてたのか)


 なんて失礼なことを内心、呟いては白柳先輩のいないこの場所に用はないと、踵を返した。

 つもりだった。

 誰かに襟首を掴まれ、なぜか奥の部屋へと引きずり込まれている。
 誰か、なんて考えなくてもそれが金久保だということはすぐにわかる。
 しかしデジャヴだ。


「おい、自分からここに来たくせになにも言わずにいなくなるのか?」

「そうですね、ちょっと目的の人がいなかったので」


 だから俺に触るな、と言ってしまいたいのをなんとか堪えると、襟首を掴んでいた手が離れたため相手に気がつかれないほど小さな溜め息をこぼしながら振り返る。
 すると先ほどと同じ体勢でカクテルを飲んでいる金久保が。
 それはノンアルコールなのか、と尋ねてみたいがそんな時間はない。


「白柳だろ?」

「……よくわかりましたね。でもここにいないみたいなんで失礼します」


 一度、小さく頭を下げてからその場を去ろうとするが、今度は頭を掴まれてしまったため動くことができなくなった。
 しかしこれもまたデジャヴを感じる。


「白狐のシロに頼みたいことがある」

「この俺に、ですか?」

「ああ。とても不愉快だが腕のいい情報屋は今のところお前しか知らなくてな」


 どうやら本当に情報屋のシロに用事があるらしい。


「早く先輩に会いたいですけど、まあいいですよ。……でも、ちゃんとわかってますよね?」

「報酬は先払い、だろ?」


 さあ、族の総長が情報屋を使ってまで欲しがる情報はなんなのか、言ってみろ。






 後悔した。
 偉そうに言ってみろ、なんて思わなければよかった。
 数分前の自分に会えるのならば言ってやりたい。
 髪の毛をむしり取られてでもいいから金久保から逃げろ、と。

 だってまさか金久保の欲しがる情報が、


「赤嶺と親しげの黒滝の情報だ。生年月日から生まれた場所、好きなものや嫌いなもの、全ての情報を頼む」


 この俺の情報だったなんてな。


「総長が一人の人間の情報を欲しがるなんて、それほどその人は金久保さんの恨みでも買ったんですか?」


 なぜ昨日、初めてあった俺の情報を求めるのか。
 気になりそう尋ねてみると、動揺したのか彼の眉が大きく揺れた。

 数秒の沈黙のあと。
 金久保はゆっくりと口を開いた。


「……ソイツに、惚れたんだ」


 マジかよ。

 わずかに俯き、照れくさそうに口元を手のひらで隠すような仕草に嘘ではないということが伝わってくる。
 一体どこに惚れたのかとか、本気なのかとか。
 色々と聞きたいことはあるけれど、聞いてしまったら後戻りができなくなってしまうような気がする。
 なにが、と聞かれたら俺にもよくわからないんだけど。


「へえ。まあ先払いしていただけるなら理由は気にしないですけどね」

「それなら受けてくれるってことでいいんだな?」

「もちろんです」


 不審に思われないように俺の情報を全て提供するしかないな。
 もちろん、情報屋だということは秘密にしておくが。

 発生した予想外の面倒事に思わず内心、深い溜め息をこぼしてしまった。


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