シロクロデイズ〜third day〜


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 用件はそれだけだったらしい金久保からようやく解放された俺は今、学校の屋上への階段を上っている。
 ここに来るまでに廊下で何人かの生徒とすれ違ったが、みんな恐ろしいものを見るかのような目で俺を見ては走って逃げていった。
 わかってはいたが嫌われてるな、とお面を被ったまま小さく笑い、屋上へのとびらを開く。
 すると一昨日と同じように、フェンス越しから街並みを見つめている白柳先輩の後ろ姿が目にとまった。


「先輩、やっぱりここにいたんですね」

「シロか?」

「はい、俺です」


 振り返ることもなく呼ばれた名前に一度だけ頷いては歩みを進め、先輩の隣へと立ち見上げてみると、彼も俺を見下ろしていた。
 まるで全てを見透かしているようなその瞳に、フェンスへ伸ばした指先がピクリとわずかに揺れた。


「お前、まだ情報集めてんのか?」

「まあそうですね、一週間の契約なんで」

「……無茶だけは、すんなよ」


 視線を外しながら放たれた俺を心配するような言葉。
 嬉しさに、思わず胸が熱くなる。


「ありがとうございます。……それなら先輩、俺が無茶なことをしなくていいように教えてくれませんか?」


 フェンスに顔を向けたまま、視線だけをまた俺へ戻した。


「昨日の金久保さんとの話の内容」


 無意識なのか、先輩の眉がわずかに揺れた。
 そして数秒の沈黙。
 その沈黙がなにを意味しているのか俺は気づいていた。
 気づいていて、敢えて口を開かない。

 そんな俺に気がついたらしい彼は小さく息を吐き出した。


「シロ、情報屋ならどうするべきかわかってるだろ?」

「等価交換、ですか」

「お前が情報屋を始めた理由、それを教えてくれたら俺のも教えてやってもいい」


 少しだけ意外だった。
 情報屋をやめろとか、そこまでいかないにしても族での情報を収集するのはやめろと言われるもんだと思っていた。


「そうですね……まあ、立ち話もあれですし」


 フェンスを背に、ゆっくりとその場に座り込むと隣に立っていた先輩も同じように腰を下ろす。
 その動きを見つめてから顔を青空へと向けては、緩い風を浴びながら開いていた目をゆっくりと閉じた。



 俺が情報屋になったのは、名前の知らないあの人が原因だ。
 あの人との出会いは、俺が中学校に入学したばかりの頃だった。


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