シロクロデイズ〜third day〜






 あの日からシロと行動を共にしてわかったことがある。

 シロは情報屋だということ。
 仕事中は敬語だということ。
 喧嘩も強いということ。

 他にも挙げたいところはあるが、今のところはこのくらいにしておこう。


「そういやお前、あの後どうしたんだ?」

「あの後?」

「俺がお前の名前を聞いた後だよ」


 一週間前の、俺とシロが初めて出会った日のことを聞いているのだろう。

 シロ、という名前を教えてもらったあと、半ば無理やりに名前を聞き出された。
 その後、落ちていたナイフを拾い、怪我人の俺をそのままにこの狐男は屋上から去っていったのだ。
 そして入れ替わるかのように、限定のイチゴミルクを購入できたらしい満面の笑顔の赤嶺が帰ってきた。
 コンクリートの上に倒れたままの、ボロボロの俺の姿に彼は手にしていた限定のイチゴミルクを落として駆け寄ってきてくれた。

 中身がこぼれ出し、甘い匂いが漂う。
 もったいない、と痛みで余裕がないのにそんなこと考え俺はそこで意識を手放した。



「で、そのあとその赤嶺が保健室に連れてってくれたらしいんだよ」

「赤嶺って奴と仲がいいんだな」

「まあ、幼馴染みだし」


 俺たちは今、初めて出会った学校の屋上で話をしている。
 どうやらシロは屋上が好きらしい。
 この一週間、毎日のように屋上に足を運んでいるがシロがいなかった日は一度もない。
 情報屋の仕事はないのか、と聞きたくなったりもするけれど、シロと過ごすゆったりとしたこの時間が好きだから口になんて出さない。


「で、その幼馴染みは今はどこだ?」

「アイツの好きな好物をやってそのまま教室に置いてきたけど、赤嶺に興味あるのか?」

「いやそれはない。最近お前、よくここに来て幼馴染みとの時間が減ってるみたいだからな」


『たまには遊んでやったらどうだ?』と続けられた彼の言葉に、屋上に来る前の赤嶺のことを思い出す。
 嫌だ嫌だと、俺が一人で屋上に行くことをまるで子供のように嫌がって、しがみついてきて。
 それが寂しさから出た行動だとは気がつかなかった。


「シロってすごいよな」

「急になんだ。情報だったらタダじゃやらないぞ?」

「そういう意味じゃないっつの。やっぱり情報屋だからか? 人のこと見てるよな」


 フェンス越しから街並みを見渡したあと、座っている俺の背中に寄りかかっているシロへ向けてそう言葉を続けると、なぜか彼の動きがとまった。
 不思議な、数秒間の沈黙。


「……だから、情報屋は嫌われるんだ。お前も嫌になったか?」


 予想外の言葉に、俺は目を見開いた。

 薄々、情報屋は嫌われるものなんじゃないかとは思っていた。
 けれどまさかシロがそんなことを口に出すなんて、思ってもみなかった。

 未だ動きをとめたままのシロに、ふっと小さく笑ってから体を捻っては、目に入った広い背中へとのしかかるように体重をかけてやる。
 苦しげに吐き出された悪態には、らしくもなく声に出して笑ってしまった。


「嫌にならない。嫌いになるはずがない。つか、むしろ興味がわいた」

「……どういうことだ?」


 シロにのしかかったまま、雲一つない青空を見上げる。


「俺も情報屋になるかな」


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