シロクロデイズ〜third day〜
そうして俺は情報屋への道を歩き出した。
もちろん、シロには『情報屋にはなるな』と何度も言われた。
けれど俺の決心は固く、それに気づいた彼が目を伏せ、深く息を吐き出したのを今でも覚えている。
なんて、そんな長々と白柳先輩に話すことができるはずもなく、『俺の知り合いが情報屋だったので』の一言で片付けてしまった。
閉じていた目をゆっくりと開き、隣に座ったままの彼へ顔を向けるとその言葉に納得していないらしく、怪訝な顔を浮かべている。
「嘘じゃないですよ?」
「ならその知り合いは今どうしてるんだ?」
そんなの俺が聞きたい。
本当、今どこでなにしてるんだよ。
別れ際のあの人の表情を思い出しては短く息を吐き出し、重い口を開く。
「わからないんですよ。その人とは、もう三年前から会ってないんです」
今にも泣き出しそうな顔をして、あの人はどこに行った。
「……シロ、寂しいのか?」
「寂しい?」
「目が、泣きそうだ」
白柳先輩の手が顔に伸ばされる。
その瞬間、彼から一定の距離を置いてしまったのは今、俺がお面を被っているからだ。
白柳先輩に触れられたくなかったとか、そんなことは決してない。
だからといって触れられたかったわけでもないけれど。
などと、誰に言い訳をしているのか、そんなことを考えながら小さく謝罪の言葉を口にするが先輩の隣には戻らず。
伸ばされ、行き場をなくした彼の手は気まずそうに自分自身の膝へと落とされた。
「……なんか、悪い。別にお面を取ろうとしたわけじゃねえんだ」
「わかってます、ちゃんとわかってますから先輩がそんな顔する必要はないんですよ」
眉尻を下げ、本当に申し訳なさそうな彼の表情に笑いかけようとした瞬間だった。
白柳先輩の表情が、名前の知らないあの人の泣きそうな表情と被った。
呼吸が、とまった。
性格だって、声だってあの人に似ていない。
それなのにどうして、白柳先輩からあの人の面影を感じる?
「……先輩、等価交換ですよ」
笑顔も浮かべられずに言葉を放った俺を、彼はどう思っただろうか。
「ああ、わかってる。昨日の金久保との話の内容だろ?」
それとも、俺の表情に気づいていないから変わらない声色でそう返したんだろうか。
先輩の口がゆっくりと開かれ、言葉を放とうと息を吸い込んだ。
学校のチャイムが鳴り響いた。
突然の大きな音に、言葉を放とうとわずかに口を開いた表情のまま先輩は動きをとめている。
そんな彼から視線を外し、制服のポケットから携帯を取り出し今の時間を確かめるとすでに十一時をまわっていた。
「先輩、混む前に売店に行きませんか? 話は食べながらってことで」
『もう十一時ですし』と言葉を続けると、彼は開かれたままの口を閉ざし小さく頷いた。
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