シロクロデイズ〜third day〜






「……先輩、そんなに食べるんですか?」


 四時間目が始まる前の休み時間だからか、人のいない売店でパンを購入した俺たちはまた屋上に戻ってきていた。
 俺は無難に焼きそばパンとメロンパンと牛乳を買った。
 白柳先輩はというと――


「シロはもうちょい食べたほうがいいんじゃねえのか?」


 俺の三倍の量はある。


(いや、食べ過ぎだろ)


 内心そう呆れてしまいながらも焼きそばパンの封を開けては、片手で被ったままのお面の下側を引っ張り、空いた隙間にパンを突っ込み頬張る。
 なかなか食べづらいが、仕方がない。

 パンを頬張りながら時たま牛乳を飲み、隣でもくもくとパンやらおにぎりやらを食べている白柳先輩へ視線を移すと、彼もこちらを見ていたようで目が合った。


「……先輩」

「……ん?」

「先輩ってゲイですか?」

「は?」


 先輩の食べていた鮭のおにぎりがコンクリートの上に落ちた。
 その隙を狙っていたかのようにスズメたちが集まるが、彼は気にしていないようだ。
 目を丸くし、俺を見ている。

 先輩との付き合いはかれこれ二年になるが、ここ数日、彼の表情がよく変化している気がする。


「金久保さんがゲイで、赤嶺さんがバイ。だから白柳先輩はどうなんだろうと興味があったので」

「……期待に応えられなくて悪いけど、俺が今まで付き合ったやつは女だけだな」

「それならノーマルってことですね」


 金久保のチームは、金久保の趣味で男もイケる人しかいないのかと思っていたから少しだけ安心した。
 というより、今までの付き合いでなんとなくノーマルだとわかってはいたけれど。


「シロはどうなんだ?」

「俺もノーマルですよ。っと、話が脱線しましたね」


『お前が振ったんだろ』という白柳先輩の言葉を右から左へ。
 食べ終えた焼きそばパンの袋を未開封のメロンパンの下敷きへ、まだ中身の残っている牛乳を喉へ流してから先輩へ顔を向ける。
 と、彼はまだ残っていたパンへ手を伸ばしながらこちらを見た。


「俺には兄がいる」


 らしくもなくビクリ、と肩が跳ね上がった。


「アイツは今、病院で入院してるんだ。だからたまには見舞いに行ってやれって、そういうことを金久保と話していた」


 そう言うと、いつの間にか袋から取り出したパンを頬張った。

 なぜだか短い沈黙。
 なにかがおかしいと、パンを食べ進める彼へ今度は俺が口を開く。


「それだけですか?」

「それだけだけど?」

「あの、先輩のお兄さんと金久保さんとの関係とか教えてくれないんですか?」

「俺、確認とったよな。昨日の金久保との話の内容だよなって」


 まさか。


「それ以上の情報が欲しいなら、わかってるだろ?」


 やっぱりそう来たか!


「……先輩、上手いですね」

「まあ、俺の兄は情報屋だったしな」


 一つの線が、もう一つの線と繋がった。
 動揺を隠すことができない。


「なに。それは、どういう」

「なんとなく勘づいていたんじゃないか?」


 待ってくれ。
 次々と言葉を続けないでくれ。

 頭が、働かない。


「俺の兄は情報屋で、元白狐のシロだった」


第三話 完


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