シロクロデイズ〜fourth day〜


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 無事、入院先を教えてもらった俺は白狐のお面を被ったまま病院の前に立っている。
 ここに、三年前に姿を消したあの人が入院している。
 騒がしくなる胸を、気持ちを落ち着けるように深く息を吐き出しては辺りを見渡す。


(さすがに病院でもお面を被ってるわけにはいかないしな)


 人が歩いていないことを確認しては被っていたお面を外し、病院内へと足を踏み入れた。



 受付であの人の病室の場所を聞いてはそこへ向けてゆっくりと足を運ばせる。
 落ち着けたはずの胸がザワザワと騒がしさを取り戻している。
 どれだけ深呼吸をしても落ち着くことができない。

 もしあの人が俺のことを忘れていたらどうしようとか。
 顔なんか見たくなかった、とか言われたらどうしようとか。
 らしくもなくそんなことばかりが頭の中を駆け巡る。


「……シロ」


 ボツリと、俺の知るあの人の名前を呟いて数秒、意を決して目の前のとびらを開く。

 するとそこは真っ白な世界だった。
 窓が開かれ、そこから入ってくる風によって白いカーテンが揺れている。
 花瓶に綺麗な花が飾られ、その近くのベッドに誰かが横になっている。

 震える足を室内へ。
 ゆっくりとベッドへ近づいていくと、横になっている人物の顔がようやく見えた。


「シロっ」


 一度しか素顔を見たことはないけれど、忘れるはずがない。
 三年間、ずっと会いたいと思っていたあの人が目の前にいる。

 心臓が今にも張り裂けてしまいそうで、震える手をゆっくりと伸ばしては彼の手にそっと重ねる。
 どこか細くなってしまった彼の腕にわずかに眉尻を下げつつ、顔を覗き込む。
 三年前に素顔を見たとき真っ黒で短かったその髪は、今は真っ白に染まって肩下まで伸びている。
 そしてそんな彼は痩せこけていた。


「いったい、なにがあったっていうんだよ」


 どうしてシロは目を覚まさない?
 早く起きて、その目の中に俺の姿を映して欲しいのに。


 ガタリ、ととびらの揺れる音がした。


 重ねていた手を掃除が行き届いている床へ、そのままベッドの下へと体を滑り込ませる。
 どうじに、とびらが開かれたため思わず安堵した。


(てか、隠れる意味あったのか?)


 内心、そんなことを考えながらもベッドの下で息を殺したまま、開かれたとびらへと顔を向けてみる。
 だがこんなところにいて顔が見れるはずもなく、靴だけが見えた。
 靴だけを見てわかることは、入ってきた人物が男だということだけだ。


「……総長」


 思わず声を上げてしまいそうになった。
 それはなぜか。
 理由は二つある。
 一つ目は、シロが総長と呼ばれたから。
 二つ目は、その声の持ち主のせいだ。


(なんで金久保が!)


 そういえば先輩に、金久保とシロとの関係を聞くのを忘れていたと内心、深く溜め息をこぼしてから、耳をさらに働かせるため開いていた目を閉じる。

 金久保の足音がベッドに近づき、とまる。
 そして短い沈黙のあと、息を吸う音が聞こえた。


「あれから三年経った今でも俺はまだ恨まれてる」


 静かな空間に金久保の声が響く。


「なにが正解だったのか今でもわからない。でも俺たちはきっと、間違ったことしてないよな?」


 シロに話しかけているようにも聞こえる言葉。
 しかし実際はただの独り言なのかもしれない。


「……久しぶりに来たのに湿っぽくなったな」


 カラリ、と笑って数秒。
 椅子の引く音が聞こえたため座ったことがわかる。


「俺たちが助けたソイツは今、お前のチームにいる」


『つっても今は俺のチームだけどな』なんて続けられた言葉に、閉じていた目をゆっくりと開く。


「しかもソイツ、白狐のシロって呼ばれてるんだぜ? みんな、まだお前のこと恐れてるんだよ」


 ベッドの下から飛び出したかった。
 今、金久保が話している『ソイツ』とはきっと――いや、絶対に俺のことだ。
 そんな俺をシロと金久保が助けたって?
 話が、全く見えてこない。

 そう呆然としている俺の存在に気づいていない金久保はその後、二言三言語り、部屋から出ていった。
 俺はというと、ベッドの下に潜ったまま動くことができなかった。


「……シロ」


 俺を助けた?
 なあ、どういうことだよ。
 頼むから、早く起きて教えてくれよ。


 制服のポケットに入れていた携帯がずっと小刻みに震えていたことには、気づかないふりをした。


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