シロクロデイズ〜fifth day〜
第五話「fifth day」
朝が来た。
重い瞼を擦りながらゆっくりと上半身を起こし辺りを見渡すと、隣に赤嶺が眠っている。
そんな彼の赤く、やわらかな髪を撫でベッドから下りては台所へと向かう。
冷蔵庫からいつも通りバナナと牛乳を取り出しては、バナナを口にくわえながらパックの牛乳にストローをさす。
その瞬間、バタバタとなにやら騒がしい音が台所へ向かってきたことに気がつき、顔を向けてみるとわずかに息を切らしている赤嶺の姿が。
一体どうしたのかと、くわえたままのバナナを口から離そうと手を持ち上げる。
が、そんな俺の行動よりも先に赤嶺の手がくわえたままのバナナを掴んだかと思うと、なにを思ったのかそれを喉奥まで押し込んできた。
「ん、ぐ……っ」
突然の喉奥へと刺激に、苦しさにわずかに眉間に皺を寄せながらバナナを噛み千切っては、牛乳を手にしていないほうの手で目の前の赤い頭を強めにはたいてやる。
すると『いたっ』なんて声を上げながら離れてくれた。
そこでようやく、くわえたままだったバナナを口から離し、噛み千切ってしまった部分は細かく噛み砕いてから飲み込むことができた。
「お、前は朝っぱらからなにするんだよ」
このままだと怒りのあまり牛乳パックを握り潰してしまいそうだ、と手にしたままの牛乳を洗面台へ。
地を這うような声を発しながら目の前の男を睨むが、彼はヘラヘラといつもの笑みを浮かべたままだ。
「えー、だってバナナ食べてるクロちゃんがあまりにもイヤらしくて」
食べかけのバナナを思わず握り潰してしまった。
その様子に赤嶺は『ギャー』なんて声を上げながら自分の股を押さえている。
本気でソコを踏みつけてやろうか、なんて考えたが想像してみたら自分自身も痛かったためやめておく。
溜め息混じりに、フローリングを汚したバナナを片付けては牛乳を片手に昨夜と同じようにベッドへと腰を落ち着かせる。
と、なぜか俺の隣に座る変態野郎。
「……なんで隣に座る」
「えー、いいじゃん。一つのベッドで体を暖め合った仲なんだし?」
「ただ一緒に寝ただけだろ」
バッサリ、そう切り捨てながら手にしたままの牛乳を喉へ流し込み、枕元に置きっぱなしにしていた携帯を手に取るが着信も受信もない。
平和でなにより、と爺臭いことを考えていると突然、腰にまわされた腕の力の強さに驚き、思わず口に含んでいた牛乳を吹き出してしまった。
一つだけ言わせてくれ。
朝っぱらから、いい加減にしろ!
どうやら最近の赤嶺は真面目らしい。
単位がヤバイから、なんて言いながらも余裕そうにウインクをした赤嶺を先に見送り、取り残された俺はようやく訪れた静けさに深く息を吐き出してしまった。
そして手の中の、まだわずかに残っていた牛乳を飲み干してはゴミ箱へと放る。
今日のやることは決まってる。
シロを脅した奴を。
俺を脅しのネタに使った奴を。
「潰すしかないよなぁ」
テーブルの上に置いたままの白狐のお面を手に取っては、それを見つめる。
「……あと少しだけ、付き合ってもらいますよ」
お面を被りシロになった俺は、自然と口元に笑みを浮かべていた。
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